5. 身体に染み付いた匂い

シン、と静まり返った部屋。耳を澄ませてみても何も聞こえて来ない。
シャッ、て音を立ててカーテンを一気に開ける。眩しい陽が入って来て、思わず瞳を瞑った。


「……スッゲー……朝だぁ……」


テレビを点けて感嘆の呟き。
画面に映し出されたのは、若くてまだ初々しさが見られる女のアナウンサー。
原稿を読んでる途中で頻繁にとちったりしている割に、狙ってる感じがなくて好印象。かな。
朝のニュース番組を見るなんていつぶりだろう。こんな時間に起きてる自分に驚きだ。


「……メシ」


確か昨日食パン買って来たよな。あとジャム。
あまり甘いのがたっぷりなのは好きじゃないから、食パンにはちょっとだけ苺ジャムを塗る。
テレビをぼんやりと眺めながらそれを囓った。


「……なーんかなぁ……」


不味いわけじゃないのに、なんか味気無い。コーヒーもちょっと苦い感じ。


「これも全部アイツのせいだっ」


いつもよりも早く目が覚めちまったのも、メシが美味くないのも、全っ部アイツが悪い!
……ってのはちょっと理不尽かもしんないけど。


「久保ちゃんのバカやろー」


そう言いたくなるのは仕方ないと思う。
今この部屋に久保ちゃんはいない筈なのに、凄い存在感っていうか、そういうのがあるんだ。
だってさ、アイツが出掛けたのって昨日の夕方だぜ?なのに部屋ん中は煙草の匂いが充満している。
アイツを思い出すなってのは無理な話だ。
だから全部久保ちゃんが悪い。
我ながら言ってることおかしい気がするけど、んなことどうだっていいや。
メシの片付けをして、テレビの電源ボタンを押す。
すると、俺しかいない部屋ん中は凄い静かになった。
ぼふっ、って音を立ててソファに身体を沈ませる。


「……煙草」


ソファにまで匂いが染み付いてやがる。なんか俺の服にまで付いてる感じ。
ちゃんと洗ってんだけどなぁ………久保ちゃんが。


「……だあぁーっ!!くっそ!!」


なんか知んねーけどムシャクシャする。
拳でソファを叩いたら、ボフッ、ってさっきよりもこもった音がした。


「………換気だ」


思い立ったら即行動。窓を全開にする。
そしたら、朝!って感じの気持ちいい風が入って来た。


「おー涼しい〜!」


カーテンが穏やかにはためく。
これで少しは匂いも消えっかな。
でも、どうせまたすぐ煙たくなるんだろうけど。


「……ま、嫌じゃないからいいんだけどさ 」


up 08.06.22