僕が急にいなくなったら、君はどうしてくれますか?

呼び声

壁に掛っている時計を見上げると、現在の時刻は22:47。確か出掛けたのが21:03くらい。
……ちょっと遅いんでない?
コンビニってそんなに遠かったっけ?アイツの知り合いって少ないから、行くにしても当てには限りがある。
鵠さんの所は絶対にないだろうし、葛西さんの所もなさそう。後は……滝さん?
……違う気がする。


「ま、そのうち帰って来るでしょ」


そう思って読みかけの雑誌に視線を戻す。
戻す、けど。
やっぱり気になるよねぇ……。俺ってこんなに他人のことを気にしたこと、なかったんだけどな。


「ヨッコイショ、っと」


ただの迷子だといいんだけど。
さて、探しに行きますか。










寒い。

ゆっくりと重い瞼を持ち上げる。
……どこだ、ココ。
目の前には廃墟と化したよくわからない建物。
あー……ちょっと思い出してきた。


「……久保ちゃん……」


気付いたら、無意識に呼んでいた。
でも、当然その呼び掛けに返事はない。
俺はコンビニに行く途中で突然変な奴らに追われた。わけわかんなかったけど、アイツらの ”W.A” と言う言葉は聞き逃さなかった。


アイツらは俺の右手について何か知っている。


色々聞き出したいことはあった。でも、5人なんて人数を相手にするには結構分が悪い。
俺は逃げるのに精一杯だった。
かなり逃げ回っていたから、なんとか撒いた頃には自分がどこにいるのかわからなくなっていた。
全く知らない場所で、辺りも暗くて、どうすればいいのかわからない。
疲れてたからそのまま寝ちまったんだ。


「久保ちゃん……」


もう一度呟く。
この声を聞いてここまで来てくれるかな、なんて。
俺を探してくれるかな、って思いながら。










見つからない。
部屋を出てからゆうに30分は経っている。
……あれ、40分かな。
まあ、とにかく見付からない。夏とはいえ、流石に夜の外は冷え込む。
俺の探している猫、どこか温かい場所でも見つけてるといいんだけど。
ふと視線を横に向ける。
……気の所為かな。耳に馴染んだ声が聞こえた。



『久保ちゃん……』



やっぱりお前か。この先にお前はいるんだね。
俺は薄暗い路地裏へと足を踏み入れた。
進むにつれて、辺りの雰囲気が廃れてくる。まるで、この世から忘れ去られた感じ。
自然と俺の足も速くなる。


「……見つけた」


やっと見つけたその猫は、膝を抱えて蹲っていた。
俺のことを驚いた表情で見上げてきたソイツ。そんなに俺が来たのが意外?


「届いた……」
「何が?」
「ううん、なんでもない」


独り言だと言って首を振る様子に首を傾げる。お前がなんでもないって言うならそれでいいけどね。


「帰ろうか」
「ん」


俺の差し出した手を掴んで立ち上がる。
特に怪我をしているってわけじゃあなさそうだけど、精神的に相当応えたみたいね。


「……久保ちゃん」


立ち止まって後ろを振り返る。俺の一歩後ろにいた猫は、その大きな瞳で俺を見上げていた。
そして、ふわりと微笑んだ。


「やっぱなんでもねぇ」


そう言ってまた歩き始める。
俺はその後ろ姿を黙って見つめていた。
今、らしくもないコト考えちゃった。



今日の立場がもし逆だったら、ってね。



そうしたら、お前は俺のこと探してくれたのかな?
それともそのまま待ってる?
うるさいのがいなくなったって喜ぶ?
……どっちかって言うと、アイツの方が賑やかだよね。
なーんて。くだらないか、こんなコト。
なんだかんだ言って、俺達って結構お互いに依存しちゃってるみたいだし。


「時任」


俺が名前を呼ぶと、お前はすぐに振り返る。


「コンビニ寄ってかない?」
「えー……なんかもう面倒」
「でも、もうスニッカーズなかったんじゃない?」
「う……そういや、セッタも残り少ないとかお前ぼやいてなかった?」
「はい、けってーい」
「あー面倒だぁー……」


ブツブツと文句を言いながらも、お前は笑顔。
この笑顔を見てると、ホント他のことはどうでもよくなるよ。


up 08.02.09