部屋の中には、カチャカチャとかドカーッン、っていう音だけが響いている。
他には何もない。スッゲー静かだ。
夜だってこともあるけど、それ以上に、久保ちゃんがいないから。
俺はコントローラーを放ると、そのまま後ろに身体を倒して目を閉じた。フローリングに触れた背中がひんやりとする。
「………さみぃかも」
かもじゃねぇな、寒い。
カチャカチャとかの音が消えた代わりに、今は暗い感じの音楽が部屋を満たしている。
音の発生場所はもちろんテレビ。画面には『GAME OVER』の文字。
……言いわけっぽいけどさ、ツエーんだよ、アレ。ムズいんだよ。
なんであんなのを久保ちゃんが10分もしないうちにクリアしてんのかが理解できない。
久保ちゃんはコツがあるとか言ってたけど、んなもん知らね。
真正面からぶつかって行く。
これが俺のやり方だ。
中には裏技とか言って卑怯な手を使う奴がいるけど、そういうのはあまり好きじゃない。
攻撃を受けてもダメージを食らうどころかHP回復したり、ホントはMP消費しないといけないのに無視して大技決めたり。
ありえねーじゃん、そんなの。
そりゃあ、裏技なんて使わなくてもゲームのシナリオの設定上、ありえないのはたくさんあるぜ。
天候を自在に操ったり、いきなり夜を朝に変えたり、魔法を使ったり変身したり。
現実だとそんなに上手くいかない。つか、ゲームが上手くいき過ぎてんだ。何度もリセットしてやり直し出来るとことか。
よくさ、人生もゲームみたいにリセット出来たらなぁ、とか言う奴いるじゃん?
ああいうの聞くとさ、なんか上手く言えないけど、苛々してくる。そういうこと言う奴らって、馬鹿じゃねえかって。
俺達って、絶対いつかは死ぬだろ。一人の例外もなく。それがいつなのかは誰にもわからない。
死ぬまでに色々後悔とか、嫌な思いはたくさんある。
でもさ、だから頑張れんじゃねーの?
人生はゲームみたいにやり直しは出来ない。だから皆は、最高の生き方が出来るように努力するんだ。
そう簡単にリセットなんて出来たら、皆テキトーに毎日を過ごすんじゃねーか?またやり直しゃいいや、とか言ってさ。
それって、絶対おかしいじゃん。
俺は久保ちゃんと出会ってからの記憶しかないけど、それでもスゲー後悔もあったし、悔しい思いもした。
それを乗り越えていくのが大事だと思う。
「……寝てるの?」
突然頭上から降ってきた声に驚いて、閉じていた目を開ける。
「び、ビビったー……」
俺の顔を覗き込むようにして久保ちゃんが立っていた。いつ帰って来たんだよ。
「時任、鍵開いてた」
「あ」
ヤベ、また開けっ放しにしちまった。
久保ちゃんの視線が俺から逸れる。その視線の先は俺がさっきまでやってたゲーム画面。
「ゲームオーバー」
「……だってムズいんだもん」
久保ちゃんが楽しくて堪らないって感じで見てくる。
……なんかムカツク。
「くそっ見てろよ。ゼッテー明日までにクリアしてやる!」
「もう日付変わってるよ?」
「じゃあ今日中だ!」
そう言って身体を起こすと、テレビとゲームの電源を切る。
久保ちゃんが、アレ?って視線を向けて来た。
「……一眠りしてからクリアする」
久保ちゃんは納得したみたいだ。
「んじゃ寝ようか」
「うん」
面倒だからゲームは片付けないでそのまま。久保ちゃんももう慣れっこだから何も言わない。
「おやすみ」
「ん、おやすみ」
ゆっくりと目を閉じる。
明日も、……いや、もう今日なんだっけ?
俺の人生が最高のものになるように、生きたい。
up 08.01.31