ふたつでひとつ

「っ……」


あまりの痛みに右手を押える。
スッゲー痛ぇ。
俺の足許には割れたコップ。さっきコーヒーでも飲もうかなと思って取ったら、突然右手が痛み出して落としちまった。
朝からジンジンって感じで痛んでたんだけど、今じゃズキズキいってる。
割れたのが俺のコップでよかった。


「く、そ……っ」


右手さえなければ、こんなことになんてならないのに。
そう思って、前に右手を切り落とそうとしたことがあった。
そしたら、久保ちゃんに止められた。


『……何やってんの?』


その時の久保ちゃん、いつもより声が低くて、表情も無表情だからちょっと怖かった。
あれは、スッゲー怒ってた。


『逃げちゃダメだよ。時任、負けるの嫌いでしょ』


うん。俺様は負けず嫌い。自分でも認めてる。だから我慢。
久保ちゃん怒ってたけど、なんか泣きそうな顔でもあったんだ。
あんな表情、させたくないから。久保ちゃんには似合わないって。
でもさ。


「早く帰って来い……バカ……」










大丈夫かな、時任。
朝から様子がおかしかったんだよね。……多分、また痛むんだろうな。
意地張って絶対に痛いなんて言わないし。
あー……やっぱ置いて来たの失敗だったかなぁ。俺が安心出来ないや。


「久保田君。先程から行動が挙動不審ですよ」
「あれ?そうでした?」


鵠さんよく見てるね。って、俺が分かり易いのか。
今は鵠さんの所でバイト中。今日は外じゃなくて中の。
でも、全然やる気出ないんだよねぇ。


「……今日の分はあらかた済みましたし、後20分ほどで終わりにしましょうか」


今天使の声が聞こえた。


「……いいんですか?」
「気になるのでしょう?」


ああ、全部お見通しなのね。










「……時任?」


久保ちゃん?


「生きてる?」


生きてる、って……


「第一声がそれかよ……」


久保ちゃんが俺の額に手を添える。
外寒かったのかな?久保ちゃんの手、冷え切ってんじゃん。


「……熱は出てないね」


右手が痛み出すとたまに熱出すから、俺って。


「ただいま」
「おかえり」


久保ちゃんの声聞いたら、痛みがかなり引いていった。
安心するんだ、久保ちゃんの声って。


「お饅頭、食べる?」
「食う!」


久保ちゃんが紙袋を掲げながら聞く。
そう言えば昼飯を食ってないことに気付いた。意識した途端、腹が空腹を訴えてきた。


「はい」


久保ちゃんが苦笑しながら饅頭を手渡してくれる。
……んなに笑うなよ。


「鵠さんにお礼言いなさいね」
「げっ……これモグリからかよ」
「この間、美味しい美味しい言ってたじゃない」


確かに前に久保ちゃんについて行った時に、モグリんとこで食ったけどさぁ。


「時任、何か飲む?」


あ。


「あ、あのさ、久保ちゃん」
「ん?」
「………コップ」
「コップ?」
「割っちった」
「あらら」


すっかり忘れてたけど、俺ってばさっき割っちゃったじゃん。一個しかねぇのに。


「じゃあ、それ食べたら買いに行こうか」
「うん」
「二つ買わなきゃねぇ」
「……なんで?」


俺が割ったのって一個だぜ?二つってことは俺と久保ちゃんの分?
首を傾げる俺に、久保ちゃんは笑いながら言った。


「お揃いがいいじゃない」
「そうか?」
「そうなの」
「ふーん……」


お揃いねえ……。なんかそれって、コイビトドウシって感じでなんだかなぁ。ペアルックとかってよく言うし?
あ、でも。
それならもう割ったりなんてしないかも。お揃いってさ、二つで一つってことだろ?
どっちかが欠けたらダメじゃん。


「時任?」
「久保ちゃん!早く行こうぜ!」


そう思ったら、早く買いに行きたくなった。
残ってた饅頭を一気に飲み込む。


「そんなに急ぐと喉に詰らすよ」
「ヘーキだって!」


早く欲しい。


「行くぞっ久保ちゃん!」
「はいはい」


二つで一つ。
なんかそれって、俺達みたいじゃん?


up 08.01.31