クリスマスだから特別に何かある、というわけでもない。
それでも心が浮き立つのは、隣の存在のせいだろうか。

専属サンタ

この時季はどこを見てもイルミネーション。
数日後に控えたイベントへ向けて賑わっている。


「ああくそ。マフラーうざくなってきた。さみぃ」


マフラーをしていても感じる冷気に、宍戸は悪態をついた。そして、しゃべるたびに白くなるそれの行き先を目で追う。
悪態をつくものの、寒いと言うわりにそんな素振りはない。むしろ楽しそうに自分の吐き出した息を見つめている。


「あまりそうは見えないな」
「はぁー……そうか?手とかすげえ冷たいぞ」


ほら、と言って差し出された手に触れてみれば、確かに冷えきっている。普段からそれほど暖かくはない真田の手より低い体温。
厚着を好まない宍戸は、それだけ熱を奪われるのが早いのだろう。
今まで気が付かなかったが、鼻の頭も赤くなってしまっていた。自分もそうなのだろうかと、一瞬真田は考える。


「よほど寒いようだな」
「そうは見えないつったじゃねぇか」
「鼻が赤い」
「うわマジかよ」


なんかかっこ悪いな、と恥ずかしそうに冷たくなったそこをこする。


「そういう歌あったよな。クリスマスの」
「赤鼻のトナカイ、か?」
「そうそれ」


言い当てられたことに喜色の表情を浮かべるも、自分の発言を反芻して、宍戸は顔を顰めた。


「……俺トナカイかよ」
「自分で言ったんだぞ」
「じゃあ真田がサンタ?」


俺がトナカイなら、お前はサンタクロース。


「俺が?」
「ああ。……俺だけの、な」


思いがけない言葉に真田が目を瞬く。
それを見つめながら、やはり自分らしくなかったなと宍戸は思う。それでもそのまま次の言葉を続けた。


「俺だけにプレゼントを届けてくれて、幸せにしてくれればいい」


続けたはいいが、やはり言っていて恥ずかしくなったようで、真田の方を見ようとはせずに、周りのイルミネーションに気を取られたふりをする。
二人は普段から世の恋人達がしているような、甘いやり取りはしない。
人間、誰にでも得意不得意があるものだ。真田も宍戸も、"恋人らしく" というものがどうも苦手だ。それがわかっているから、お互い相手に普段以上のことを望んでいないし、しようとも思っていない。
それなのに先程のような発言をしたのは、場の空気にほだされたとでも言うべきか。


「手袋買うか」


降って来た声に、宍戸はそらしていた顔を真田へ向ける。
真田にはその顔が赤くなっているのがわかったが、イルミネーションの光によるものだと思うことにしておいた。
冷たくなった宍戸の手に真田が自分の手を添える。どちらも冷え切っているはずなのに、触れているだけで暖かく感じる。


「一足先のクリスマスプレゼント?」


目でチラチラと添えられた手を気にしながら問う。それでも振り払う気はないようだ。


「そうだな。……だが、俺がプレゼントを届ける相手は一人だけらしいからな。一年に一度では少ない」
「何、当日も何かくれんの?」
「それはどうだろうな」
「なんだよそれ」
「……ところで、俺のサンタは何をくれるんだ?」


今度は宍戸が目を瞬く番だった。


「……俺、トナカイじゃなかったのかよ?」
「では、俺は誰に幸せにしてもらえば良いのだ?」
「……俺?」
「しかいないだろう」


何をとぼけたことを、と呆れた視線を向けられる。


「なんか真田が別人」
「人のことを言えるのか」


イベント事にはこれと言って固執もなく、自分から行動を起こそうとは思わない。
誰かと過ごすことに、意識的に意味を見出す必要性は感じない。だが。


「25日、部活だっけ?」
「そっちもだったな」
「休みになんねえかなぁ」
「そうだな」


世の中の恋人達がイベントを楽しみにしている気持ち。
それが少し、わかった気がする。


up 09.12.20