「宍戸、誕生日おめでとー!」
「おーサンキューなジロー」
今日は珍しく寝ぼけずに登校して来た芥川が、教室に足を踏み入れると同時に宍戸に駆け寄りながら言った。
それを聞いて気づいたクラスメイトから口々に祝いの言葉を贈られ、宍戸が笑って礼を言う。
一通り落ち着いたところで、自席に着いた芥川が、前の席に座る宍戸に尋ねた。
「ねえ、もう岳人からはおめでとうって言われた?」
「いや、まだだけど」
「え、意外。日付変わったら真っ先に電話すると思ったのに」
「一番じゃなくても構わないから、電話じゃなくて直接言いたいんだとよ」
「あぁなるほど。好きだからちゃんと顔見て言いたいんだねー」
おもしろそうに見上げてくる芥川の視線に、宍戸はあからさまに嫌そうな顔をした。それを見て芥川がにししと笑う。この幼馴染を恋事でからかうのは楽しくて仕方ない。
「宍戸ーーっ!!!」
ドアの開く大きな音が響いたかと思えば、即時聞こえてきた大きな声。
大声で名前を呼ばれた宍戸だけでなく、教室にいた全員が驚いた表情で声の主、向日を見た。しかしその後すぐに、何事もなかったように各自それまでしていた作業に戻る。その様子から、それだけ普段、向日がこの教室に何を目的に顔を出しているのかがうかがえる。
向日は真っ直ぐと宍戸に向かうと、席の横で立ち止まり、真剣な表情で宍戸を見下ろした。
「どうした岳人?」
「ありがとっ!」
「は?」
前触れもなく礼を言われても、何に対してなのかわからない。戸惑って芥川を見てみるが、彼も宍戸と同じような顔をしていた。
二人の様子を見て、向日が顔を崩して笑う。そして今度は、噛み締めるようにゆっくりと口を開いた。
「生まれてきてくれて、ありがとう!」
言われた言葉に目を見開く。
誕生日なのだから、祝福の言葉を贈られるとは思っていた。
それがまさか、 『おめでとう』 ではなく 『ありがとう』 だとは思ってもみなかった。
固まっている宍戸に気づいた芥川が背中を小突く。うながされた宍戸は頬を掻くと、目を細めて微笑んだ。
「どういたしまして?」
恥ずかしさも手伝って、少し首を傾けておどけたように言う。
その様子に向日も満足そうに笑い、いつものごとく宍戸に飛び付いた。
「宍戸ハッピバー!」
「あ、俺も俺も!宍戸ありがとー!ハピバー!」
「わかった、わかった!だから止めろ!お前ら重いッ!!」
芥川も机を乗り越えてまでして加わり、収拾がつかなくなる。
その光景を見て失笑しているクラスメイトの気配を感じながら、向日と芥川がとびきりの笑顔でさらにギュッと抱き付いた。
「「Happy birthday!!」」
一年に一度の特別な日。
伝えたいのは祝福と感謝の言葉。
出会えたコトにありがとう。
up 10.09.30