電気が消えた部屋。でも射し込む月明かりのおかげで、相手の顔が確認できるほどには明るい。
俺が寝心地のいい場所を探ろうと身動ぎすると、じっとしていろとでも言うように頭を撫でられた。
少し顔を上げて、ベッド脇に置かれた時計を覗き込む。すでに日付は変わっていた。
「なあ宍戸」
「んー……?」
呼びかけると気だるげな声が返ってきた。もう寝かせろと言われそうだ。なんで俺よりお前が疲れた感じになってんだよ。
「お前のこれからを頂戴って言ったら、お前はどう答える?Yes?No?」
「……なんだその質問」
「ほら、今日誕生日だから」
「あぁ……欲しいもの?」
「そ」
今日は俺の誕生日。宍戸にプレゼントは何がいいかって聞かれたから、とりあえず一緒に過ごせと言っておいた。いらないものを貰っても困るとかで、こいつにはサプライズでプレゼントを渡すという考えはないらしい。気持ちがこもってりゃ何貰ってもいい、って自分では言うくせに。気持ちはわかるけど矛盾してる。
「これからって言うと、人生?」
「うん。この先ずっと」
宍戸は少し考える素振りを見せて、でもすぐに答えた。
「偽りでいいのなら、お前が欲しい言葉をやれるけど」
「……えっとー……それはつまり、Noってことだよな?」
俺が欲しいのはYes。宍戸と一緒に生きる未来だ。となると宍戸からの答えはNoになる。
批判的な目でちょっと睨むように見てみても、宍戸からの答えは変わらなかった。
「これから何があるか誰にもわからないだろ。俺達にはどうにもならない事情ができるかもしれない。ずっと一緒にいられるかなんてわからねえよ」
はっきりと言い切った。少し悲しげではあるけれど、そこに申し訳なさとか絶望の類はない。
一番、こいつらしい答えなのかもしれない。
「……宍戸って結構現実的だよなぁ」
「お前は割と理想が高いよな」
否定はしねえよ。でもちゃんと現実だって見てるよ。
でもさ、あるじゃん。こうだったらいいのになーとか、無理だってわかってても思うことってあるだろ?
お前とずっと一緒にいられたら。なんてのは、好きな奴になら抱いてもなんら不思議じゃない感情だ。
「……でも、気持ちがその現実と同じとは限らないよな」
「え?」
独り言だったらしい。宍戸がポツリと呟いた。あまりにも小さかったんで聞き逃しそうになった。
宍戸の呟いた言葉を心の中で繰り返してみる。
……あれ?もしかしてこいつ、俺と同じこと考えてた?
「じゃあさ、もう一つ質問」
こっちを見て、宍戸は何も言わずに俺の言葉を促す。
「俺のこと、ずっと好き?」
「ああ」
間髪を容れずに答えた。そのことに俺が面食らっていると、宍戸は真っ直ぐ俺の顔を見て続けた。
「それは何があっても変わらない。嫌いにはなれないだろうな」
そしてフッと微笑む。
自惚れかな。それがいつも以上にかっこよくて、愛情が溢れてて、あまりにも優しい笑みだったから。
「俺もっ!俺もずっと好きっ!」
嬉しすぎて、ベッドの上だということも忘れて、いつものように目の前の宍戸に抱きついた。
横になっていたせいで満足に衝撃に備えられなかった宍戸が、俺にのしかかられて苦しそうに呻いた。
もし押し潰しちまったら、それは俺からの愛の重さってことで。
「宍戸、俺まだ誕生日プレゼント貰ってない」
「まだって……日付変わってからどのくらいだ?そんな経ってないだろ。つーかいい加減どけ」
「このままもう一回」
「……プレゼント?」
「やっぱ貰って嬉しいもんじゃなきゃな」
「昨日あげたじゃねーか」
「誕生日は今日。プレゼントはまだ。学校休みで部活もなし。断る理由なし。な、ちょーだい」
「でもな……」
「別にいいぜ?勝手に貰うから」
「バッ、こら岳人ッ!!」
未来とか将来とか、まだわからないことはたくさんあるけれど。
ずっと一緒にいられるって確証はないけれど。
今、俺はお前が好き。
今、お前は俺が好き。
それでいい。
この気持ちは、これからもずっと変わらないんだから。
up 10.09.12