宍戸が部室のソファで雑誌を読んでいると、そこに向日が無理やり身体を割り込ませてきた。宍戸の足の間に座って正面に寄りかかると、満足そうにそこに居座る。
当然宍戸は顔をしかめた。前にいられたら読みづらくてしかたない。
「邪魔なんだけど」
「あ、俺のことは気にしないでいいから」
「いやだから、邪魔だつってんだろ」
大きく溜息をついて文句を言ったが、好きにさせることにしたらしい。それからは向日をどかすことはしなかった。
しかし向日の頭に片手をのせ、グイッと引き寄せて手元を見えやすくすることは忘れない。向日も小さく悲鳴を上げたが、多少手荒な扱いを受けることは予想していたので抗議はしなかった。
「……なんか甘いにおいがする」
「ああ、飴舐めてるから」
「お前?」
「そう。ストロベリー味だぜ。お前も味わってみるか?」
上半身を捻り、ちらりと舌の上の飴を見せたあと身を乗り出す向日。キスをするつもりなのだ。
向日が宍戸の頭を固定しようと手を伸ばしたところで、向日の頭上に何かが振り下ろされた。
とっさにはたかれた頭を押さえて振り返ると、そこにいたのは滝だった。
「はーい。公共の場では控えるようにねー」
笑顔で言う滝の手には丸められた雑誌。黒いオーラは出ていないので、怒っているわけではないようだ。
そこに、冷静な跡部の声がした。
「萩乃介。もう一人にも制裁を加えておけ」
「え?」
「宍戸も満更じゃなさそうだった」
その言葉に、向日と滝は驚いた顔で宍戸を見る。
宍戸は気まずそうにしつつも、余計なことを言うなと言いたげに跡部を睨みつけた。
確かに、さきほどの宍戸は抗議の一つもせずに静かだった。いつもなら腕を突っ張るなどして拒絶するだろう。
そのことに喜々とした表情を浮かべた向日は、完全に身体を反転させて宍戸の両肩に手をのせた。
「マジ?じゃあ続きやろーぜ!」
「だから駄目だと言ってるだろ」
今度は跡部が向日の頭をはたいた。
「いいじゃんか別に。お前らに迷惑かけてるわけじゃねぇし」
「あーん?ここがどこだか、お前はわかっていないようだな」
「部室」
「だったら、」
「みんなが仲良く使う部室ー。険悪ムードはんたーい」
「てめーのせいでそうなってんだろうが!」
言い合いを始める跡部と向日。いくら本気でないとはいえ、目の前でやられる宍戸としては堪ったものではない。
そっと向日の背を押し、そのまま跡部のほうへ押しやって自分から遠ざける。今は跡部との言い合いに夢中のようで上手くいった。
その様子を見ていた滝は、クスクスと笑いを堪えながら宍戸に言う。
「それで?制裁は加えておくべきかい?」
「んなのいらねぇよ」
吐き捨てるように言うと、再び雑誌に視線を落とす。そんな宍戸の隣に滝が座った。
「すること自体は好きだけど、自分からはできない……って感じかな」
さらりと言ってのけた滝を、宍戸は無言で睨みつけた。それを気にした様子もなく、滝はひょうひょうとした表情で続ける。
「非難してるわけじゃないよ。だって君達、それで上手くいってるじゃない」
「何が言いたいんだよお前は……」
宍戸の口調が呆れたものに変わる。
「宍戸が照れ屋さんなおかげで、岳人の暴走が制御できてるのかなぁー、と思っただけ」
「はあ?なんだそれ」
「考えてもみなよ。二人とも積極的じゃあ収拾がつかないって」
滝が首を少し傾けて微笑む。
「だから宍戸はそのままでいてね。俺も人がイチャイチャしてるのなんて、しょっちゅう見せられるのは嫌だから」
その言葉に宍戸が思い切り顔をしかめる。不本意だが思い当たる節がありすぎた。
「……正直な意見をありがとよ」
「でもさ、いくら岳人に強いられた上にあの廊下を使う人が滅多にいないからといって、校舎内でキスはいかがなものかと思うよ」
言い終えた瞬間、手にしていた雑誌を宍戸が無言で滝の頭に振り下ろした。
「あいたっ!ちょっと宍戸!?手加減してよ!」
「余計なお世話だッ!つーか見てんじゃねえッ!!」
「だから公共の場では控えろって言ってるんだろ!?っていうかアレは不可抗力!!」
「んなこたぁ知るかッ!!」
「ああくそっ照れ屋も考えものだなあ!!」
第二の言い合いが始まるも、この場に止める者はいなかった。
この日からしばらく、宍戸から向日に 『学内での接触禁止令』 が出されたとかなんとか。
up 10.08.21