夏温度

流石夏。あっついな。
エアコンをつけてはいるけど、そのスイッチを押したのはついさっき。つまりまだ部屋は冷えていない。
その場しのぎに下敷きであおごうか。頑張って腕を伸ばせばちょうど届きそうな所にある。
でも、今のこの距離を変えると思うと躊躇われる。やっぱり却下。
暑いのなんて、今の俺にとっちゃ些細なことだ。こっちの欲求を満たすことが最優先。


「おい」


すぐ近くからの不機嫌な声。俺の目の前だ。


「暑いんだけど」
「だって夏」
「んなこたぁわかってる」


ぐるりと首を巡らせこっちを向く。いつも以上に目付きが悪い。
また機嫌を損ねちまったか。それとも照れ隠しか。
前者だな。少なくともまだ。でもあえて言ってやる。


「照れる必要はないぞ」
「誰が」
「そんな顔してたら幸せ逃げるぜ?」
「そうさせてんのは誰だよ。早く離れろ」
「だって俺、宍戸のこと大好きだし」
「……意味わかんねぇよ」
「うん。だからな」


ギュッと腕に力を込める。さっきまで以上に暑くなった。
でも、それでいい。


「もっと近くにいたいなー、って」


もっともっと、ずっと近く。
いつだってどこだって。
部屋が暑かろうが、そんなものは関係ない。俺がこいつの近くにいたい。ただそれだけだ。
だから腕を伸ばして抱きついた。口先だけで拒絶する背中に。
本当に嫌なら簡単に拒める。俺の力じゃこいつの力にはかなわないんだから。
振り払われないのをいいことに、俺はもっときつくしがみつく。
部屋がやっとこ冷えてきた。剥き出しの腕を冷たい空気が撫でる。
でも密着している部分は未だ熱を持っている。


「……おい」
「何?」
「もっと温度下げろ。暑い」
「りょーかい」


もっと密着OKとのお許しが出た。たまにははっきり言ってくれてもいいのに。
言われるままにリモコンを操作する。その時、宍戸に回したままだった俺の手に宍戸の手が添えられた。
触れたところから広がる熱。そんなことするからまた離れたくなくなる。
ガンガンに涼しくしてもっと抱きついてやろうか。


up 09.08.17