今日はバレンタインだ。
意中の彼に受け取って貰えるだろうか。
憧れの彼女は誰かに渡すのだろうか。
朝からそわそわドキドキ。
誰もが浮かれてカーニバル。
それは俺も例外じゃなくて。
「幸せだ……」
口の中が甘い香りでいっぱいになる。
明らかに義理だとわかるカラフルな箱。
包装されていないそれは、俺にとっては十分にプレゼント。
義理が多いけど、中には告白ともとれるメッセージが添えられていたりして。
こういう場合はどう捉えるべきなんだろうかと悩んでしまったり。
「うわ、また増えてる。何箱目だそれ」
「あ、宍戸お帰りー」
席を外していた宍戸が戻って来た。
俺の前の席のイスに座るなり、手に持っていたものを俺の目の前に置く。
可愛らしく飾られた箱が二つ。
「わ……また増えた」
宍戸の言葉をそのまま返してやりたい。
何箱目だそれ。
今日何度目かわからない呼び出しを受けた宍戸の鞄の中はとてもカラフルだ。
「疲れた……」
机に突っ伏して唸る。
俺はそんな宍戸を視界に入れながら、新しい箱に手を伸ばした。
今度のはストロベリーショートケーキ風。実は初めて食べる味だったりする。
「宍戸、それはモテる奴だけが言える特権」
「……昔は言ってみたい台詞トップだったのに」
宍戸でも言ってみたいと思ったことあったんだ。そういうの興味ないと思ってた。ちょっと意外。
宍戸の人気が出てきたのは髪を切ってからだ。
まとう雰囲気ががらりと変わったから。以前は近寄り難いオーラを発しまくってたもんね。
「ところでさ、本命からは貰えたの?」
「本命?」
むくりと宍戸が上体を起こす。
そして頬杖を突いて興味なさそうに言った。
「いや?」
「えーてっきり朝一で渡すと思ってたんだけどな。俺が一番!とか言って。じゃあ定番の放課後かな」
校舎裏に呼び出し、とかはないだろうけど。告白じゃあるまいし。
くわえていたポッキーを細かく砕きながら考える。
この時期に男がチョコを買うのは恥ずかしいし、本当はあげるものだから違うんだけど、負けた感じがして屈辱的だからチョコなんて買えるか、って言ってたっけ。
でもイベント好きな岳人のことだから、何かしらの行動は起こすと思うんだよなぁ。
それになんだかんだ言って、最近じゃ逆パターンもアリになってきてるし。もしかしたらチョコの可能性もあるかも。
宍戸が片腕を上げた。
何かと思って視線を追ってみると、ちょうど岳人が教室に入って来るところだった。
まっすぐこっちに向かって来るところを見ると、やっぱり目当ては宍戸だろう。それ以外ってなかった気もするけど。
あれ?ということは今渡すの?
「よーお前らもたくさん貰ってんな」
「岳人も?」
「おう!チロルチョコ大量だぜ!!」
親指立てて嬉しそうに言ってるけど、つまり、それはどう考えても。
「義理か」
「義理だな」
本命がチロルチョコという話は聞いたことがない。
「いいじゃん美味いんだし!それに付き合ってるのがいるんだからさ」
そう言った岳人は、後ろ手で隠していたらしい小さな水色の包みを取り出すと、宍戸の前に突き出した。
「チョコ。お前に」
「誰から」
「俺」
「お前?」
宍戸が目を瞬く。
「お前、チョコは買うのが嫌だって言ってなかったか?」
「言ったけどさ、やっぱバレンタインっていえばチョコじゃん?」
お菓子業界の戦略とはいえ、 『バレンタイン=チョコレート』 という式はみんなの頭の中で常識のように成り立っている。
多くの他の国では、親しい人同士で交換し合うのが主流らしいけど。プレゼントもチョコと限ったものではないし。
早く開けろと岳人が急かす。宍戸が包みを開くと、中には。
「あまりにもアレだよなーって思ったけどさ、うん。やっぱり俺も男なわけだし、その、なんていうか……とりあえず、察しろ」
味がいろいろ、選り取り見取り。
パッケージを見ているだけでも楽しめます。
小さな四角形のチョコレート。
いたよ。本命にチロルチョコ渡す人。
やっぱり本格的なものを買う勇気はなかったらしい。
「……まあ、頑張ったってことは認めるわ」
「そうしてくれると助かる」
「でも結構たくさん買ったんだねー」
何個あるのかわからないけど、二桁はあるんじゃないかな。
それらを一つひとつ見つめているうちに、段々と宍戸の表情が険しくなる。
あー何考えてるのかわかるや。
「宍戸ー。せっかく岳人が宍戸の為に買って来てくれたんだから、ちゃんと食べなきゃ駄目だよ?」
「わかってるよ」
「甘いけど全部だよ?」
「……わかってる」
宍戸は甘いものが苦手だ。
今日のバレンタインだって、甘いのは無理、と呼び出されたら渡される前に断っているらしい。
それでもこんなに貰ってる。
そのくせ、岳人が絡んでくるといつもそのことは文句を言いながらも後回し。ひとえに愛だねぇ。
「お前が甘いの駄目だってのはちゃんとわかってっから」
「だったらなぁ……もう少し別の味にするとかあるだろ……」
「解決策なら既に考えてある」
チョコの山から一つ取り上げると、包みを剥がしていく。
宍戸はその様子に首を傾げてるけど、俺は気が付いてしまった。こいつはまたろくでもないことをする気だ。
岳人は自分の口にチョコを放り込むと、ようやく事態に気がついた宍戸の制止する声も聞かず、そのまま目の前の唇に押し付けた。
なんて言うんだっけこういうの。
ソフトじゃなくてフレンチでもなくて。バード?なんか違う。
誰かの技でそんな名前のなかったっけ。
………ああ。ディープだ。
チョコを相手の口に移すだけでいい筈なのにやたら長い。
実際に目の当たりにしたのは数回しかなかったけど、いつもこんなことしてんの?この二人。
ていうか、宍戸、辛そうなんだけど。もしかして慣れてないの?
ていうか、俺が一番言いたいのは、人のこんな目の前でがっつくなってことだよね。
何やら視線を感じて周りを見渡してみると、二人はクラスの約半数の視線を集めていた。
その内の大部分は女子。
さらにその内の大部分は片手に携帯電話。
写メ撮るなよ。どうせまたすぐ見れると思うから。
うちのクラスの人は寛大過ぎると思う。むしろ特異。普通は男同士ってひくんじゃないの?
「どうだよ。これで甘さが中和されただろ」
岳人。それ意味わかんない。
得意気に言ってるけど俺にはわからないよ。
「……バカ。余計甘くしてどうすんだよ」
最近宍戸が岳人に感化されている。昔の純情なお前はどこにいった。
ていうか、今なんか覚えのある音が聞こえたんだけど。
誰だよ。ムービーに切り替えて撮影してるのは。
「ジロー君じゃまー」 っていう声は無視していいですか。
「ほら宍戸、もう一個。まだたくさんあっから」
「おまっ…ちょっ、バカ!!ちゃんと食ってやるから普通に食わせ…っ」
(ああっさっきよりも長い…!!)
(その写メあとで私にも送信してよ!?)
(行き詰まってた原稿がこれで進みそうだわっ!!)
誰もが浮かれてカーニバル。
浮かれ過ぎと思うのは俺だけですか?
サイト1周年&バレンタインということで、09.06.30までフリーとさせて頂きました。
現在はお持ち帰りできません。
up 09.02.14