キラキラゆらゆら輝いて、
照らし出すものは、なに?
冬場の帰り道。
部活後も遅くまでテニスコートに残っていたお蔭で、すっかり辺りは暗くなってしまった。
夏はよかった。帰宅が遅くなっても暗くなることはないし、寒さで凍えることもない。
夏は熱気によって歩いているだけで汗をかく。だがそれはテニスをしてしまえば冬だろうが同じ。汗は冬だってかくのだ。
では冬の方がよいと言えるところは?
宍戸は緩く首を振った。一つも浮かばない。
手はかじかむし、風を断ち切るマフラーの圧迫感が落ち着かない。
「……それに危ねーし」
設置された照明の活躍で、テニスコートには十分な明かりがある。
集中している間は感じなかったが、一歩その勢力範囲から出てしまえば暗闇で。
自分の足場を確認することさえ容易ではない。
ただでさえ視界が悪いというのに、眼前を歩く姿は先程からちっとも足元を見ようとはしないのだ。
絶えず視点は逆方向。
「岳人、いい加減に前見て歩け。そろそろ転ぶぞ」
堪らなくなった宍戸は声をかける。見ているこっちがハラハラする。
そんな宍戸の思いは届かず、返ってきたのは酷くあっけらかんとしたものだった。
「へーきだって」
歩きながら天を仰ぐ彼の足取りはしっかりしている。
しかし、だからといって足場までしっかりしているとは限らない。
一歩先には、何がある?
「ぅあ……っ!?」
躓いたのか、踏み外したのか。
暗闇の中でもわかる悲鳴を上げ、向日の身体が前方に傾く。
一体何に足を取られた?
傾いた直後、力が反対方向に及び、身体が後方に引っ張られる。そして停止。
「……バカが」
頭上から降ってきたものは溜息。
首をめぐらせて窺うも、見上げる形では顔色の確認は不可能だ。
では声の調子から判断しよう。
……この上なく呆れている。
「何が平気だって?」
「あははっ、平気じゃなかったなー」
笑って誤魔化すと、降ってきたのはまた同じもの。
それに不満のあった向日は唇を尖らせた。
「でもキレーだぜ」
それはそうだが。
口にはしなかったが、宍戸は心の中で同意した。
二人の頭上には無数の点が光り輝いている。
澄んだ冬空では星がよく映える。それに向日が心奪われるのも無理はないだろう。
しかし、それは向日ほど、宍戸の関心を引くものではなかった。
ロマンチックやムードといった言葉とは縁遠い宍戸である。
星空を視界に収めるより、もっと他の物を収める方が有意義だと思ってしまう。
どんな感動的な情景を目の当たりにしようが、関心の向くことはない。
というより、そのようなものを見た時に抱く感情がくすぐったく、関わり合いたくないというのが本音だ。
星空を意識から追い出し、傍らの存在へ意識を切り替える。
そして、冷気に触れて冷たくなった向日の手を無言で掴み歩き出す。
未だ空を眺めていた向日は、突然のことにバランスを崩した。
足をもつれさせるも態勢を持ち直し、手を引かれるままについて行く。
「寒い。早く帰るぞ」
「宍戸っ!急に引っ張んな!」
「はいはい」
「つーか、お前手繋ぐの嫌いじゃなかった?何繋いでんの?」
「嫌かよ」
「や、かなり嬉しいけど」
「そうでもしなきゃお前転ぶだろ」
「いやいや。お前がスピードを緩めてくれれば、より転ぶ確率は低くなるんですけどね?」
宍戸はズンズン突き進んで行く。自分の方が歩幅が広いとわかっている筈なのに、向日のことを考慮する気はないらしい。
引っ張られながら向日は文句を言おうと口を開いた。が、止めておいた。
どんな形だろうと、宍戸の方から手を繋ぐことなど滅多にないのだ。この場は黙って好きにさせよう。
「あっ」
突然向日が声を上げた。
短く上がった声に宍戸が釣られて空を見上げると、一瞬何かが視界を横切った。
尾を引く一筋の光。流れ星だ。
そう認識したと同時に視界から消える。あまりにも速い。
「……言えねえっての。3回なんて無理に決まってる」
ブツブツと恨めしそうに向日が呟く。
「宍戸が俺に、までしか言ってねえ」
それに続くのは何?
とは聞かないでおくことにした。どうせまたろくなことじゃない。
「なあ宍戸」
くいくい、と繋いだ手を引っ張られた。宍戸が見下ろす。
頭上に広がる明りによって、自分を見上げる表情が僅かに窺えた。
「なんだ」
「また見れるといいよなっ」
まっすぐと自分に向けられた笑顔。
「……そうだな」
冬もいいのかもしれない。
頭上で瞬くどんな星々よりも、
目の前の輝きこそが、何よりも眩しいと思った。
up 08.12.25