cherry blossom

満開に咲き誇る、桜の花。その木の下に、宍戸はいた。
風に吹かれて時折揺れる桜を見上げ、立ち続けている。

桜は嫌いではない。しかし、好きと呼べるほどでもない。
色付いた花びらはきれいだし、かわいらしいと思う。
しかし、その姿から連想されるものは、「出会い」 と 「別れ」。
そして宍戸はたった今、その「別れ」の卒業式を終えたところだ。


「とりゃあ!!」
「うおっ!?」


元気なかけ声と共に誰かに背後から突っ込まれた。
がっちりと身体の前に回された腕を引き剥がしながら、呆れた表情で振り返る。


「お前なぁ……危ないからいつも止めろって言ってんだろーが」
「いいじゃん。宍戸はちゃんと受け止めてくれんだろ?」


宍戸に突っ込んだ本人である向日は、悪びれる様子もなくニヤリと笑って見せた。


「……背後からいきなりじゃ、出来るものも出来ねぇだろ」


視線を逸らしながらボソリと呟く宍戸にニヤニヤと笑いかける。
そんな向日に一瞥を投げると、また宍戸はそっぽを向いてしまった。


「あれ?お前さぁ…」
「…なんだよ」


向日の言葉に訝しんだ宍戸が視線を戻す。
宍戸の顔を覗き込み、やっぱり、と向日が呟いた。


「お前、さっきまで泣いてたろ」
「なっ」
「目、ちょっとだけど赤くなってるぜ」


げ、と慌てて目許を擦る。けれどその行為はもはや手遅れで。


「亮君かわいー」


ここぞとばかりに向日がからかう。
ばつが悪くなり向日を睨み付ける。しかしすぐにそれも意味のない行為だと悟る。
宍戸は諦めたように溜息を吐いた。


「あーくっそー迂闊だった。……お前は式中に泣いてたくせに」
「えっ、知ってたのかよ!?」


今度は向日が慌てる番だった。


「退場する時にな。ちらっとだけど見えた」
「くそ……知ってんのクラス連中だけかと思ってたのに」


悔しそうにぼやきながら頭を掻く。
宍戸は笑いながらその様子を見ていたが、不意にあることに気づき声を上げた。


「岳人、ちょっと止まれ」
「へ?」


片腕を上げた姿勢のまま固まる向日。
宍戸が向日の髪へ手を伸ばし、何かを摘み上げる。
それは、一枚の桜の花びらだった。


「何お約束なもの付けてんだよ」
「あーさっき桜ぶっかけられたから」
「は?誰に」
「跡部と侑士」
「……は?」


思わず何度も瞬きを繰り返してしまった。


「……あいつら、そーゆーキャラだっけ?特にあいつ」
「な。俺も驚いた」


二人共、忍足ならともかく跡部までやるとは思わなかったらしい。


「……まあ、でも」



ありかもな、そういうのも。



「あ、宍戸。呼ばれてるぜ」


向日が指を差す方を見ると、両手を大きく振る芥川がいた。
そしてその後ろには、共に戦ってきた仲間達の姿。
遠目でもわかるほどに瞳を赤らめている者もいる。しかし、その顔はどれも笑っていて。



とても、幸せそうな笑顔。



なかなか動こうとしない二人に焦れたのか、芥川が駆け寄ってきた。
やはりその顔も笑っている。けれど、隠し切れていない不満が滲み出ていた。
きっと開口一番、その不満をぶつけてくるのだろう。
宍戸と向日は顔を見合せ笑う。


「俺達も行くか」
「だな」


二人同時に仲間のもとへ駆け出す。



春に咲く、ピンクの花。
風に揺れ、舞い落ちる無数の花びら。
抱く想いは人それぞれ。
「終わり」があって、「始まり」があって。
はかなくて、やさしくて。
だけど、すべて変わらないあたたかさ。
彼らを明るく包み込む。


up 08.03.09