「……………なあ」
「……ん?なんだよ」
「幸せそうだな」
「スッゲー幸せ」
「……………なあ」
「……う?何?」
「美味いか?」
「マジ美味い」
「……………お前さぁ」
「何?」
「まだ食うのか?」
「全然余裕だぜ!あ、何?お前も食べたくなった?」
「じゃなくて、いい加減察しろよ……」
「……何が?」
「このテーブルに広がるケーキだよっ!いくらなんでも食べ過ぎだっ!!俺への嫌がらせか!?」
宍戸はうんざりといった風に顔を顰めた。それとは対照に、向日は終始笑顔だ。
二人は今、最近オープンしたばかりのケーキ屋に来ていた。クラス中でも美味しいと評判の店だ。
甘いものが苦手な宍戸だったが、向日が行きたいとしつこく駄々を捏ねたので仕方なくついて来たのだ。
向日に以前からケーキバイキングに行きたいという話を聞いていたので、一度くらいはということで承諾した。
しかし、目の前のテーブルには十数という色も形も様々なケーキが並び、甘ったるい匂いが漂っている。
正直言って、宍戸にはかなりキツかった。なんせ、彼はとにかく甘いものが苦手なのだ。
バレンタインのチョコさえも一切受け取らずに断る。なので、彼に贈る場合は甘さを控えたものでなければ受け取ってはもらえない。
「うん、って言ったら?」
首を傾げ無邪気に笑う。そんな向日を一瞥し、宍戸は窓の外へと視線を向けた。
「……ぶん殴って帰る」
「うわ、ヒデー」
目の前の光景から目を逸らしても、店中に充満する匂いからは逃れられない。本当に帰ってしまおうか、という考えが頭をよぎる。
「宍戸」
「……あ?」
名を呼ばれ顔を向ける。すると、口に何かを押し込まれた。瞬間、口内に広がる程よい甘さと、ほろ苦さ。
驚いてそちらを見れば、笑顔でフォークを構える向日がいた。
「へへっ、どうだ?それ甘さ控え目だから、お前でも平気じゃね?」
屈託なく笑う姿に、なんだか気まずくなり視線を逸らす。
確かにそんなに甘くなく、結構宍戸の好みに合っていた。しかし、それを素直に言える性格ではない。
「………マズくはないな」
「素直に美味いって言えよ」
向日は頬を大きく膨らませた。しかし、次の瞬間には笑顔になり、皿を手に駆け出していた。
宍戸は驚いて目を見開いた。
「な、岳人っお前まだ食うのか!?」
「もちろん!それで、絶対に宍戸好みの見付けてやるからなっ!」
指をビシッと突き出して楽しそうに笑う。その様子に、宍戸は自分でも思わず顔が綻びるのがわかった。
「ったく……」
諦めたように溜息を吐くと、宍戸は向日の隣に立ち、ズラリと並ぶケーキを覗き込んだ。
「宍戸?」
向日が不思議そうに首を傾げ見上げてくる。
「……せっかくの食べ放題だからな。少しは食わなきゃ損だろ」
ポカンとした顔をした向日だが、次の瞬間には破顔していた。嬉しそうに笑うと、いきなり宍戸の腕に絡み付いてきた。
「ぅわっ岳人!?」
「なあっ宍戸!これ食えよ!この店で一番の人気商品!で、激甘!!」
「んなもん食えるかっ!!」
店内で騒ぐ二人の笑顔はとても輝いていた。