「暑いー……あ〜つ〜い〜よ〜……」
「本当に暑いよな……千石、なんか涼しくなることしろよ」
「何そのムチャ振り。思いついてればとっくにやってるよー」
「だよなー……」
「……あ!そうだ手塚君。ギャグ言ってよギャグ。思いついたのテキトーに言ってみて。涼しくなるように、笑えないヤツでいいから」
「それは俺が普段からつまらないということか?」
「でもよ、手塚が言うってだけで笑えるんじゃねーか?」
「あ、そっか。じゃあ駄目だ」
「お前達……」
そんなやり取りをしながら、教室でぐだぐだと放課後の時間を浪費する。
やることがないなら早く帰ればいいのだが、いかんせんこの連日の暑さ。あの憎らしいほど輝く太陽の光を浴びる辛さは身を持って知っている。おまけに今日は風も全くと言えるほどにない。
つまり、外に出たくないのだ。
だったら同じ風がない状況下でも、陽の当たらない校舎内のほうがいくぶんかマシだ。
「……喉が渇いたな」
少しでも涼しくと下敷きであおいでいた手を止め、手塚が呟く。それに宍戸が素早く反応した。
「千石、俺コーラな」
「俺はお茶系で頼む」
「何そのいらない連携。ちょっとーなんで俺が買いに行くことになってんのさー」
「だってお前がドアに一番近いじゃん」
「その理由だと一番は君だよね宍戸君」
「…………あれ?」
「千石、早く買って来てやれ。宍戸が暑さで頭をやられ始めている」
「君は夏じゃなくても相当やられてるけどね」
この宍戸君馬鹿と思っても口にはせずに笑顔で答える。どうせ言ったって軽く流されて終わりなのだ。
「じゃあみんなで買いに行こうよ。そのほうが買ってすぐ飲めるよ。ここに持って来るまでに、ぬるくなるってこともないし」
俺一人が歩かされるなんて不公平、という本音は隠して、千石が最もらしい理由を述べる。
手塚と宍戸はすぐに頷いた。
「それもそうだな」
「千石に頼むと、わざと違うもん買って来るかもしんないしな」
「しないよそんなこと!?」
次々に席を立つ。ドアに向かう途中で、最後尾の宍戸が、あ、と小さな声を上げ立ち止まった。
「どうしたの?」
「俺、財布どうしたっけ?」
空っぽな自分の両手を見つめながら首を傾げる。その宍戸の様子に、手塚と千石は唖然とした。
「宍戸……机の上に置き忘れているぞ」
「…………おお!」
「駄目だ手塚君!この子やっぱり暑さでやられちゃってる!早く買いに行こう!」
よくわかっていない様子の宍戸の肩を押して、千石は慌ただしく自販機の前まで連れて行く。
手塚がボタンを押し、出てきた缶を宍戸の額に押し付けた。
「うわあーつめてぇー」
「屋内でも熱中症にはなるからな。こまめに水分補給はしろ」
「おー」
宍戸が缶を受け取ったのを確認すると、手塚は再びボタンを押し、今度は自分の分を取り出す。
「……本当にお茶なんだ」
手にフルーツ オ・レを持った千石が、手塚の持つペットボトルを見ながら言った。
「何か問題でも?」
「問題って言うかさ、わざわざお金出してお茶を買うって、なんか損した気分にならない?」
「飲みたくないものを買うほうが、よっぽど損だと思うが」
「ですね」
全くその通りだ。その通りだけれども違う気もする。
「でも、手塚君もたまには違うのも飲んでみなよ。例えば……これ、いちごミルクとか」
「見たいのか?」
「微妙かな」
意外性で提案してみたが、ピンク色の紙パックを持つ手塚を想像したら、思った以上に不似合いだった。
「なあ、いつ帰る?」
冷えた缶を千石の首筋に押し当てながら宍戸が問う。あまりの冷たさに千石は声を上げたが、その顔は嬉しそうだ。
「いきなりは止めてよー!んーまだ外暑いしなー。夕方?それでも暑いよなぁ」
「だが日差しが弱まる分、いくぶんかはマシだろうな」
「じゃあそれまで図書室にでも行く?冷房効いてるよ」
「でも静かにしてなきゃだろ?それに俺が行っても読む本ねぇぞ」
「最近は漫画も入れるようになったらしいよ」
「マジ?」
「マジマジ。この間の校内新聞に書いてあった」
「自分の通っている学校のことだ。ちゃんと読んで把握しておけ」
「面倒くせー」
「じゃあ図書室に行くってことで!うおー冷房が俺を待ってるー♪」
ご機嫌で歩き出す千石。
しかし、手塚が発した次の一言で、それは一気に消し飛んだ。
「昨日、本の返却に行った時は冷房が故障しているようだったな……直っているといいんだが」
「…………ええええぇぇぇーーーっっ!?」
「……直ってないんじゃねーの、それ」
とりあえず教室戻るか。
両側から肩を叩かれ、千石は泣く泣く現実を受け入れた。
「あれだよ。冷房に頼り過ぎず我慢もしろってこと」
「俺達ちょー頑張ったじゃん。一日中熱気の中で過ごしたよ。先生達が職員室という名の楽園にいる間も…………職員室か……」
「呼び出されようなどとは考えるなよ」
「もう遅いです!誰かアイディア持ってない?」
「呼び出し……そういや4限のプリント、俺まだ出してなかったなぁ」
「……え?」
「宍戸……それは今日中に提出のはずだが」
「…………あぁ〜!」
「行き先は保健室に変更!!宍戸君はずっとそこにいようね!?」
「え?ええぇ?」
暑い日は、しっかりと水分補給。我慢のし過ぎは身体の毒。
でも、涼しい場所ばかりにいないで、少しの忍耐も忘れずに。
up 11.08.16