結局のところ一番怖いのは

放課後の1−B教室。
全てのカーテンは閉め切られ、電気も点けられていないため、教室内は薄暗い。
そんな中で、教室の中央に集まった彼らは、やたらと高いテンションで盛り上がっていた。


「夏と言えばー!?」
「「「怪談ーー!!!」」」

「いいねーみんなノリノリだねー!一人を除いて


千石の問い掛けに、佐伯、白石、謙也が元気よく受け答える。
しかし、ただ一人、跡部だけはしかめっ面で千石を睨みつけた。


「なんで俺様まで付き合わなきゃならねぇんだ。お前達だけでやってりゃいいだろうが」
「そんなこと言うなよ跡部。こいつらと騒ぐのも楽しいだろうけど、俺はお前もいたほうがもっと楽しいと思うな」
「佐伯……」
「跡部って、怖くても意地を張ってそうだからね。その限界ってのが見てみたいんだよなぁ
「…………」
「佐伯君、黒さが増しとるわぁ」
「ちゃうでぇ白石。あれくらいは前からや


持ち上げて下げる。そんな佐伯の常套手段に、白石と謙也の冷静なコメント。
跡部は、あぁお前らはそういう奴だったな、と少しでも感動してしまった自分に溜息をついた。


「……例のごとく、今回も言い出したのは千石だろ?手塚と宍戸はどうした」
「それがさあ、二人とも文庫本やら雑誌やらの発売日だって言って、本屋に行っちゃってさ〜」
「それが正しいな」
「俺がせっかく準備を進めておいたのにー」


そう言いながら千石は窓際に視線をやった。
窓からの光を遮っているのは、普段使用している白いカーテンではなく、特別教室などで使用されている黒くて厚いカーテン。ちゃっかり借りてきている辺り本格的だ。
カーテンによってほとんどの光を遮断しているため、教室内は完全な暗闇に近い。完全ではないのは、開け放った窓から時折侵入してくる風のしわざだ。はためくカーテンの隙間から光が射し込む。夏日に密室にするのは自殺行為なため仕方ない。


「でも、よくあんなの用意できたね。あのカーテンって普段は使わないだろ?」
「それはほら、ウチの担任はそこらへん寛大だから」
「ああ、そっか」


Bクラスの担任は 『学生は全力で遊ぶべし』 をモットーに生きている人なので、友達と怪談話をすると話したら喜んで貸し出してくれた。頼んでもいないのに肝試しのオススメスポットまで教えてくれたほどだ。そのことには感謝するが、その時の担任の 「俺もまぜてくれ」 的な視線には気づかなかったことにした。


「じゃあ始める前に、今回のスペシャルゲストの登場です!」
「ゲスト?」


千石の言葉に全員が首を傾げた。誰もそんな話は聞いていない。


「それでは登場して頂きましょう!この手の話のエキスパート、不二君と幸村君でーす!はい、ケンヤ君どこ行くのかな?


不幸コンビの名前を聞いた途端に、脱兎のごとく教室から逃走しようとした謙也。
しかし、そんな謙也を白石が素早く羽交い締めにした。その動作に迷いはなかった。
例えここで白石に捕まらなかったとしても、教室の前後のドアから分かれて入って来た不二と幸村のおかげで、どの道謙也に逃げ場はない。流石不幸コンビ、抜かりない。


「千石ッ聞いてへんで!?こいつらが来るなんて!!」
「そりゃあ言ってないもん」
「落ち着きケンヤ。スペシャルゲストなんやから、事前に告知してたらつまらんやろ」
「されんでも楽しくないわっ!!」
「仕方ないなケンヤは。今からそんなに騒いじゃってどうするのさ。これから俺と不二が、とっておきの恐怖体験を聞かせてあげるのに」
「恐怖体験なら今まさに体験中じゃっ!!」


憤る謙也の肩を数回叩き、白石はしみじみと言った。


「ええなぁケンヤは。毎日ネタ満載や」
「羨ましいなら変わったるッ」
「駄目だよ。ケンヤだから面白いんだから」
「不二の言う通りや。俺やったら、そんなおもろくできへんわぁ」
「好きでやってるわけやないッ!!」


終始笑顔で謙也を見つめる不二と幸村。
本当に羨ましそうに謙也を見つめる白石。
そんな三人に囲まれて早くも涙目な謙也。


「あいつらはいつも楽しそうだよね」
「一人を除いてな」


佐伯はニコニコと爽やかな笑顔で、跡部は同情の眼差しで彼らのやり取りを見守る。
跡部は自分の隣の存在と、目の前の光景を思わず重ね合わせた。友達ってなんだろう。


「どうしよっか。これじゃ怪談が始まらないよ」
「千石がまいた種だよ。あの二人を呼んだらこうなることくらい、簡単に想像できるだろうに」
「だって大勢のほうが楽しいじゃん」
メンバー見てから言おうね。まあ楽しいけどさ」


やはりこの場にいなくて正確だったぜお前ら……
千石と佐伯の会話を耳に入れながら、今頃は静かな本屋で穏やかな時間を過ごしているであろう二人に、跡部は羨望の思いを馳せた。


「なーに遠い目なんてしてるんだよ、跡部」
「そうだよー跡部君。まだメインの怪談してないじゃん」
「やっぱりするのか……」
「そりゃあ当然だろ。俺だって対跡部用にとっておきの怪談を用意して来たんだから。絶対跡部は涙目になるよ」
「おおっ!それ聞きたい見たい!もうっ跡部君愛されてるぅ〜」
「それ本当に愛か?」


っていうかもうすでに涙目だ。
不幸コンビや佐伯の用意したという怪談なんかより、きっとこの空間にいることのほうが恐怖で。
いるかも定かでない霊の話をされても、恐怖を感じることはないかもしれない。


up 10.09.03