「ぅわっ」
校門をくぐったところで強い風が吹いた。
時折襲いかかるそれにムッとしながら、視界を遮る前髪を押さえつける。
開けた視界に飛び込んできたのは、春色の花弁が無数の真新しい制服に降り注ぐ光景。
今日は入学式なのだ。
宍戸は前髪を押さえたまま、ぐるりと辺りを見渡した。この学園の入学には単身臨んだため、当然そこには彼の見知った顔はない。
ここ虹成(こうせい)学園には、毎年個性的な学生が集まるという話だ。そのため、他では味わえない充実した学園生活を堪能できる、ということらしい。おかげで興味本位で全国各地から入学希望者が殺到しているとか。その逆の、そんな奇天烈な学校になんて通えるか!という至極まっとうな声も同じくらい多いそうだが。
間接的な曖昧表現が多いのは、宍戸には世間事情になど関心がなかったためだ。この学園に決めたのだって、兄が通っていた学校だからなんとなく自分も、という軽いノリだった。
まあそれは建前で、実際は、兄がやたらと自分と同じ学校に入学させたがってウザかったから自棄になった、というのが本当の理由だが、そのことは宍戸の記憶からは抹消されている。はっきり言って考えたくない。あの兄にはほとほと参っているのだ。
「あ、俺Bか」
昇降口に張り出されたクラス表を見つめる。二つ目のクラスだったので、自分の名前はすぐに見つかった。
あっさりと目的を果たしてしまったことに拍子抜けだ。知っている名前はないとわかりつつも、宍戸はざっと他のクラスにも目を通してみた。
「珍しい名前多いなぁー名前まで個性的なのかよ。……ん?ジャッカル?ジャッカ、ル…………なにじん?」
日本人?外国人?動物?
口に出していないのをいいことに失礼なことを思う。
「お前もBクラスなのか?」
すぐ後ろから聞こえた声に宍戸が振り返ると、自分よりも高い位置にある視線とぶつかった。
そのまま見つめ合うこと数秒。
「……先生?」
「新入生だ」
譲歩できたとしても、新人教師の間違いまでだ。
遠慮なしにまじまじと目の前の姿を見つめながら、ああでもと宍戸は思い直す。
威厳に満ちたその立ち姿と顔つきからは、到底フレッシュ感は感じられない。いくら自分と同じ制服を着ているとはいえ、雰囲気が同い年じゃない。つーかぶっちゃけ宍戸の兄の方が幼い(いろんな意味で)。
「あ……あー、マジ?どこ?」
宍戸は誤魔化すようにクラス表を覗き込んだ。
新入生だという彼は一点を指差して自分の名前を教える。
「手塚国光だ」
「本当に?あ、俺これ、宍戸亮な」
「宍戸か」
「おう。そっかー同じクラスかーよろしくな手塚!」
「っ、」
眩しいほどの笑顔を向けられ、何故か手塚の動きが止まった。不思議そうに宍戸が顔を覗き込むが、手塚は微動だにしない。
「手塚?」
「いや……なんでもない。こちらこそよろしく頼む」
一体どうしたというんだ。
自分でもわからないらしく、顎に手を当てて思案顔をする。
そんな手塚に首を傾げるも、顔の通り難しいことでも考えてんだろと気にしないことにした宍戸は、手塚の腕を叩いて促した。
「ほら、体育館行こうぜ。いきなり遅刻じゃみっともねえ。あ、それとも誰か待ってる?」
「いや大丈夫だ。行こう」
頷いた手塚は宍戸の隣に並んで歩き始める。
入学式の会場である体育館に繋がる桜並木。この下から眺める満開の桜には圧倒される。
「なあ、手塚ってマジに同い年?」
「しつこいぞ」
「あ、やっぱ気にしてたんだ」
手塚が言い返そうと口を開く。しかし、再び吹いた強い風に遮られた。
頭上で舞い踊る春色に、隣から歓喜の声が上がる。これから共に学園生活を送ることになるクラスメイトの楽しげな姿に、まあいいかと手塚は諦めたように笑みを浮かべた。
up 10.04.03