「行っくでぇ〜〜っ!必殺コンボや〜〜っ!」
「よかよ。ばってんこっちも行かせてもらうばい」
「ああぁ〜〜っ!?千歳タンマ!それアカン!!」
「勝ったモン勝ちばい」
部内一の大小コンビの賑やかな声をバックミュージックに、白石は窓の外を窺った。暗くなってきたなぁと呟くと、銀も気づいたのか、そろそろやなと壁の時計を見上げた。
金太郎の悔しそうなうめき声と、千歳のからかっているような笑い声が聞こえてきた。どうやら決着がついたようだ。ここぞとばかりに、白石が金太郎の手からコントローラーを取り上げた。
「ほな、切りもええとこやし、このへんで終いやな」
「えぇー!?もう帰るん白石!」
「日が長ごうなってきた言うても、もう帰らな」
「あ、俺も帰らんと」
「千歳の薄情モンーッ!勝ち逃げか!」
「そぎゃんこつ言われても……」
「銀は!?まだおるやろ!?」
「すまんな金太郎はん。ワシも帰る」
「いややーーっ!」
「金ちゃん。ワガママ言うたらアカン。今日銀には無理言うて来てもろたんやろ?これ以上引き止めるもんやないで」
「え、ムリヤリやった?」
「いや、大丈夫や」
「銀……ホンマは用事あった言うとったやん。甘やかしたらアカンて」
「お母さんは毎度厳しかね〜」
「お前は毎度ちゃかすなや千歳!」
ケラケラと笑う千歳を睨みつける。矛先が自分へ変わったというのに、千歳にそれを気にする様子はない。無駄と思いつつも、彼にも説教でもしてやろうかと白石は考えた。
しかし、ちょうど部屋に聞き慣れない電子音が響いたため、小言を言うのは別の機会となった。その音に覚えはないが、誰もが聞き馴染みのあるメロディーだ。各々が発生源を探し首を傾げた。
「こん着メロむぞらしかね。キラキラ星ー」
「誰の?金ちゃん?」
「ワイのとちゃうで」
「ワシのや」
「銀の!?」
イメージと違う。
バッグから携帯を取り出す銀を見つめながら思うことは全員同じだった。彼の携帯から発せられる音にしては、あまりに可愛らしくないだろうか。なにより、彼にはそういうものにこだわりはなさそうだし、初期設定のまま使用していそうなものだが。
「すまん。マナーモードが解除されとった」
「それはかまへんけど、メール?」
「誰や誰や!?」
興味津々といった眼差しを向けてくる金太郎。銀は画面に視線を落としたまま、キーを押す指を止めることなく答えた。
「ケンヤや。あいつからのは全部これにしとる。なんやあっとる気がしてなぁ」
「あぁ、納得した」
それならおかしくはない。きっと謙也が自分専用に何か設定しておけとでも言ったのだろう。彼には自己主張が強いところがある。
「で、なんて?」
「会いに来い、やて」
銀の背後から覗き込むと、画面には銀の言葉通りの文字が並んでいた。
「なんやそれ、それだけか。えらくシンプルやな。来いって言うその理由はなんやねん」
「あれ……?至急やなかと?珍しかね」
「あ、ホンマや。どーでもええ用事のときでも、ケンヤは至急や言うてワイに送ってくるで」
「俺のときもそぎゃな感じと思ったばい」
「ああ、皆にはそうみたいやな」
「銀、どういうことや?」
口々に言う仲間に頷く銀には驚いた様子はない。
「あいつはワシとのメールでは、ホンマに至急のときほど至急とは言わん」
「へぇ……ということは、これは 『早よ会いに来い』 ?」
「いや、 『早よ会いたい』 やな。この場合」
前にもあったんや、と白石の言葉を銀が訂正する。
え、と硬直した白石を、銀は目を細めてどこか面白そうに見つめた。それから手早くメールの返信を済ませ、携帯をしまい帰り支度を始める。
「ほな、ワシはこれで失礼させてもらうわ」
「あ、ワイ玄関まで付き合うで!」
部屋を出て行こうとする銀に、慌てて金太郎も立ち上がり、見送りをしようと進み出た。
「そんなことせんでええ」
「せやって銀、今日用事あったんやろ?せめてそれくらいさせてーな」
「そうか?ならお言葉に甘えるか」
賑やかな後ろ姿を呆然と見送る。そんな白石に対し、千歳は相変わらずのんびりな調子だ。
「仲よかね」
白石は、この千歳の言葉が、先ほど部屋を出て行った二人に向けられたものではないと気がついている。
白石が軽く肩をすくめてぼやいた。
「ややこしいやっちゃなぁ」
素直に早く会いたいと言えばいいのに。
いつもは、こちらが少し回りくどく話題を振っただけでも文句を言うくせに。遠回りを嫌うやつが、自分から進んでしていたとは。
おかげで、普段教室や部活では見せたことのない彼の顔に戸惑ってしまった。
「それも魅力の一つたい」
「まあ、そうなんやろなぁ」
ここは、友人の新たな一面と、彼らがうまくやっているということが知れ得をした。
そう思っておくということで良いのだろう。
up 10.05.26