ふとした瞬間。
例えば、何気ないしぐさ。
そんなものを見て、相手への愛しさを再確認することがある。
それと同時に、焦燥に駆られることもある。

恋愛中!

適度に冷房の効いた部屋。ローテーブルには氷の浮かんだ麦茶。ここに来るまでにかいた汗もすっかりひいて、とても快適な環境だ。
だというのに、千歳は満足にくつろげずにいた。
その原因は、千歳の背中にぴったりと自分の背中をくっつけて座っている謙也だ。なんのつもりか、謙也は千歳に寄りかかったまま動こうとしない。


「涼しいなぁ」
「そやね」
「こうも涼しいと、なんもやる気起きんなぁ」
「そら、暑かけんじゃなか?」
「快適すぎて動きとうない」
「結局なんもしきらんたい」
「そうなるなぁ」


そう言ったきり、何をするでもなく背を預け続ける。常に何かをしている謙也にしては珍しい。
触れ合った背中が温かい。
どうしたものかと千歳は考えたが、ぼーっとしているのは基本的に好きなので、まあいいかとこの状況に身を任せることにして目を閉じた。
目を閉じると、背中に感じるぬくもりが一層強調される。そうなると、千歳の思考を謙也が占めていくのは自然だった。

謙也の明るい性格は、人を惹きつける魅力がある。
モテないだろうと東京の従兄弟にからかわれた、という話を、少し前に千歳は謙也から聞かされていた。すかさず言い返したそうだが、その時のことをすねながら語る姿が印象に残っている。
誇大妄想でもなく、実際に謙也は男女に人気がある。それがイコール恋愛感情としてかというと、定かではない。たいていが友情止まりだろう。
しかし、ひょっとしたら自分の与り知らぬところでは……


お前は俺んこつ、どんくらい好いとっと?


浮かんだ疑問に千歳は首を振った。そんなことは聞くまでもない。謙也はいつだって全身で感情を表現してくれている。それはもう、文字通りに。
背後で謙也が動く気配がした。何かする気になったのかと様子をうかがっていると、突然背中にあった重みが消えた。
おや、と思うのと再び背中に重さと熱を感じるのは同時だった。謙也に背後から抱き締められたのだ。
そのまましばらく待ってみても、自分から仕掛けてきたというのに謙也は何も言わず、動こうともしなかった。


「なんねケンヤ」


素っ気ない口調を装い尋ねる。
しかしそんなことはお見通しなのか、返ってきたのは迷いのない声だった。


「なんや、して欲しかったんとちゃうんか」
「なしてそう思ったと?」
「千歳が、寂しいっちゅーオーラ、出しとる気がした」


そう言ってぎゅっとしがみついてくる謙也に驚く。そんなにあからさまな態度や表情をした記憶は千歳にはない。本当に感じ取ったというのだろうか。


「なしてわかるかねぇ……」
「そんなん簡単やろ」


謙也は身体を放すと、千歳の顔を覗き込んで笑った。そしてはっきりとした口調で言う。


「俺が千歳のこと、めっちゃ好いとるからや」


当然と笑う謙也の笑顔は、窓の外で輝いている真夏の太陽よりも眩しく感じた。
それに眩暈を覚えた千歳は、気づけば先程抱いた疑問を口にしていた。


「なあケンヤ」
「なんや」
「俺はお前の何%なんね?」


謙也はきょとりと目を丸くした。今にもアーモンド型の瞳が零れ落ちそうだ。
直後、謙也が小さく吹き出した。謙也は、眉をひそめる千歳の髪をくしゃりとかき混ぜ、自分のほうに引き寄せた。
そして二人の額をコツンとぶつけると、囁くように言った。


「アホ。容量超えて大変なことになっとるわ」
「……全くかなわんばい」


降参だと言ってやると、謙也が浮かべたのは余裕の表情だ。
悔しくなった千歳は、相手が目を見開くのを視界に入れながら、素早く目の前の唇を塞いでやった。


お前に負けんくらい、俺もお前んこつ好いとっと。
次はこっちがどんくらい好いとるかば示す番ばいね。


up 10.07.18