ツナがいない。
その現実をオレはなかなか受け入れられなかった。
瞼を閉じればあいつとの思い出が溢れ出す。
でも、その量は限られていて。
もうこれ以上は増えることがない。
隣にあいつがいない。それだけでオレのメモリーはもう増えない。
「山本……」
誰かに呼ばれた気がして顔を上げてみると、そこにいたのは獄寺だった。
獄寺は扉を閉めると、ソファに腰を下ろすオレに歩み寄ってきた。
「ごく、でら……?」
正面に立ったかと思うと、突然頭を抱き締められた。
戸惑う俺とは対照に獄寺の声は落ち着いたものだった。
「もういいから」
「え?」
「もういいよ。我慢すんな、溜めるな、追い込むな。……てめえの所為だけじゃねーんだから」
何を言うのだろう獄寺は。全てオレが悪い。オレの責任。
ツナはオレが守らなくちゃいけなかった。
あの笑顔を失っちゃいけなかったんだ。
「笑えるよな。ガキの頃からさんざ公言してきたのによ。あのお方をお守りすることがオレの全てだった筈なのに」
それまでは凛としていた声が震えていることに気が付いた。
泣いているのか?
一瞬そう思ったが、すぐにそれは違うのだとわかった。でも、見上げた顔はこちらが泣きたくなるくらいに歪んでいて。
「オレは右腕失格だ」
違う。それは違うよ獄寺。お前はよくやっていたじゃないか。
誰よりもボンゴレの為、ファミリーの為って走り回っていたじゃないか。
疲れているだろうに毎日身体に鞭打って、決して弱音の一つも言わず。
口には出さなかったかもしれないけど、オレ、ずっとお前のことすげえって思ってたんだぜ。
お前を見るたびに思ったんだ。負けられない、オレも頑張らなきゃって。
オレだってツナを助けるんだって。
それなのに。
「……ごめんな」
目の前の身体を抱き締める。
慣れたものと異なる感覚に若干戸惑いつつも、強く抱き締めた。
そして驚く。こいつもあいつに負けないくらい細かったんだな。
けれど、たくさんの重みを背負っている。華奢な身体は簡単に押し潰されてしまうんじゃないだろうか。
お前はあいつの右腕。
オレはあいつの恋人、の筈だった。
「ツナ……」
どうして守れなかったんだろう。
悔やんでも悔やみきれない。
なんの為にオレはこの世界に足を踏み入れた?
好きだった野球を捨て、常に死の影がちらつくこの世界に。
それは、野球なんかよりももっと大切なものを見つけたから。
お前に逢って、オレはお前からかけがえのないものを教えられたんだ。
覚えてるかな。
あの日、お前と屋上ダイブした時のこと。
オレはお前に命を助けられた。
あの日まではダチより野球をとってたんだぜ。信じられねーよな。
今のオレがいるのは、ツナ、お前のお蔭なんだ。
隣にいるのが当たり前で、そんなことお前は考えもしなかったかもな。
お前は無自覚だったかもしれないけど、お前にはオレだけじゃなく、他の奴らも助けられてたんだぜ。
いつでも誰かを救っていたから、あの日の出来事なんてお前にとっちゃ些細なことだったかもな。
でもな、オレにとっては本当に、本当に大切な思い出なんだ。
「……ツナ」
会いたい。
もう一度この腕に抱き締めて、赤く染まったお前の顔を覗き込むんだ。
山本
もう一度あの優しげな声で名前を呼んで、柔らかく微笑んで欲しいんだ。
山本
「ツナ」
ごめんな
思わず腕に力を込めて引き寄せる。
あいつではないことはわかっていたけれど、せずにはいられなかった。
すると回された腕から同じ反応が返ってきて。
その力強さとあたたかさに堪らなくなって、泣きたくなった。
「山本」
まだあどけなさの残る驚いた表情でオレを見上げる姿を見た時、夢を見ているのかと思った。
本当に幻かと、遂に自分の頭がイカレたのかと思った。
でも、幻じゃないんだな。
この手でちゃんと触れられる。震える指先に触れたぬくもりは記憶に残るものと同じだ。
こんなにもあたたかい。
失いたくない
「山本?」
「……今度こそ、オレがお前を守るから」
もう、お前を失ったりしない。
up 08.06.01