オレは今、自室に向かっている。
10代目に依頼されていた調査を終えて、さっき報告をしてきた。
今日中にやらなきゃならないものは全て片付けた。
最近は根を詰めて一心に仕事に向かっていたから、正直結構疲れが溜まっている。
だから今日は久しぶりに身体を休ませようと思っていた。
それなのに。
「うわぁあぁぁん!!」
「勘弁してくれ……」
なんでまたいるんだこのアホ牛は……
泣き声は聞こえるが、姿が見えない。
ったく……どこにいやがる。
声を頼りに探していると、廊下に無造作に積まれた段ボールが目に入った。
そういやこの箱、だいぶ前からある気がする。確か笹川が移動させるよう、何日か前に10代目から指示を受けていた筈。
あいつ、ぜってぇ忘れてやがる。
その箱の陰に、オレが探していた、蹲って泣きじゃくる牛柄の服を着た子供の姿を見付けた。
思わず大きな溜息を吐く。
「はぁ……。おい、いい加減泣き止め」
正面にしゃがんで、ランボのモジャモジャな頭に手をのせる。
そこでやっとオレがいることに気が付いたのか、ランボが顔を上げた。
あーあー、顔が涙やら何やらでグチャグチャ。
泣き虫なのは今も昔も変わらねぇな。
「ぐすっ……獄寺?」
「そうだよ。ったく、今日は何やったんだお前。……ん?なんだよ?」
さっきから惚けた表情でオレの顔を凝視してくる。なんだ?
「……獄寺……」
「だからなんだよ」
「……………ふけた?」
ブチッ
「誰が老けただ!!てめーが過去から来ただけだろうがっ!!」
「ぐぴゃっ!!」
……あ、ヤベ。
つい昔の癖で殴っちまった。
咄嗟に加減はしたからはたく程度になったけど。
それでもやっぱり。
「……が・ま・ん」
痛いよなぁ……
「くそ……悪かったラン…」
「……アホ寺のクセに」
やっぱりもう一発いっておくか。
人がせっかく頭下げてやろうとしてるっつーのに。
「……ここどこ?」
ランボが辺りをキョロキョロと見渡す。
今頃自分がいる時代が違うことに気が付いたのか?
まあ、さっきはあんなに泣いていたし、それどころじゃなかったんだろうけど。
「さっきまでお前がいた時代の10年後。で、ここはボンゴレのアジト。何度も来たことあんだろ?」
「へへん!ボヴィーノファミリーのアジトの方がカッコいいもんねっ!」
「……ああそうかよ」
会話が微妙に噛み合っていない。
いつものことだから今更気にすることでもないが。
ランボがオレのズボンの裾を引っ張った。
「ねーねー」
「ん?」
「アメは〜?」
「ああ、そうだったな」
こいつはこっちに来るたびに飴玉を要求してくる。
それさえ与えときゃあおとなしくしてるから、ぐずり出した時とかにはよくその手を使う。
おまけにランボが入れ替わるのは、何故か大抵オレが近くにいる時。
もちろん、入れ替わるのはこいつがボヴィーノにいる時の方が多い。でも、ボンゴレにいる時は今日のようなパターンが圧倒的だ。
お蔭でいつの間にかオレには飴玉が常備されてしまった。
上着のポケットを探る。
「あれ……?」
いつもここに入れてるよな?と確認しつつ、ちょっと中を覗いてみる。
何度も指を開いたり閉じたりしてみるが、そのたび指先は空を掴むだけ。
「わり……切れてる」
「ええぇー!?」
そういや、この間ので終わりだったな。
後で補充しておこうと思っていたら、ランボが過去へ戻ったその後、部下達の間で色々ごたごたが起きた。
それに駆り出されたりで、ばたばたしていたから忘れていた。
「オ……オレっちのアメ……」
床に手を突き、がっくり項垂れるランボ。
たかが飴玉でそんなに落ち込むなよ。
「ったく……しょうがねぇな……」
泣かれると後々面倒だ。
オレは立ち上がると、その場から離れつつランボを振り返った。
「行くぞ」
「どこ行くの?」
「オレの部屋。そこになら飴がある」
「本当!?」
さっきまでとは打って変わって、明るい表情になるランボ。目がキラッキラしてやがる。
泣いていたかと思えば笑って、忙しなくくるくると変わる表情。
本当、切り替えの早い奴。
「オレっちのアメー!!」
「ぉわっ!?走るなっ転ぶぞ!!」
いきなり立ち上がったかと思えば、勢いよくオレの足許を擦り抜けて廊下を駆け出す。
あいつ、前に来た時にもああやって走って、転んで大泣きしたのに全く覚えてないな。
確か入れ替わっていない時も何もない所で躓いて……
「って……あれ?」
そういや、ランボがこっち来てからもう5分経ってるよな。
「おいランボ!」
「んん?」
ピタッと止まって、その姿勢のまま見上げてくる。
取りあえずその右足は下ろしていいぞ。
「今回はなんで10年バズーカ使ったんだ?」
「あらら?そんなこと知りたいの?ランボさんどうしようかな〜教えちゃおっかな〜?」
殴りてぇ。
「…………飴はいらねぇな」
「い、いるもんねっ!!寄越せこのバカちんが!!」
「やっぱてめーうぜぇぞ!!」
後ろ襟を掴んでランボをヒョイと持ち上げる。
ランボは短い手足を懸命にばたつかせて、オレの手から逃れようとしたり蹴りを入れてきたりしてくる。
そのわりにオレへのダメージは全くない。
「で?またリボーンさんか?」
「リボーンのヤツ、ランボさんのことバカにしたんだぞ!ガキだって言ったんだもんね!!」
それはいつもだったと思うが。つーか事実だし。
「だからドカーンってやってバキューンってなったんだぞ!それでグワーンのガシャーンって!!」
それじゃよくわかんねぇよ。なんだその山本的感覚表現。
「要するに、いつも通りに返り討ちに遭ったってわけだろ。相変わらずだな……学習しろよ」
「う、うるさいっ!」
ムキになってまたバタバタと手足を動かし始める。
話を聞く限りでは、今回のはきっとリボーンさんからの反撃によって10年バズーカが故障したのだろう。
ということは、こいつはいつ元の時代に戻れるのかわからないわけだ。
「…………面倒くせ」
心底そう思った。
「こらー!人の顔見ながら溜息すんなー!」
「はいはい、わかったよ」
「くぴゃ!?」
またうるさくなってきたから、床には下ろさずそのまま胸に抱き抱えてやる。
するとランボは途端におとなしくなって、オレのスーツをガッチリと握り締める。
……一番手っ取り早いけどシワになるんだよな。
「獄寺?」
「さっさと部屋行くぞ。確かでかいぶどう味があった筈だ」
「ぶどうっ!!」
嬉しそうにキャッキャッとはしゃぐ。
こいつがこっちに来ると世話をしなきゃならないから本当に勘弁して欲しい。
面倒な上、かなり疲れる。
…………なのに、本気で嫌だとは思えないんだよな。悔しいことに。
up 08.04.01