「失礼します」
「あ、待ってたよ獄寺君」
オレが部屋へ入ると、書類と顔を向き合わせていた10代目が顔を上げた。
微笑みながらオレに自分の側へ来るように促して下さっているが、先程までの書類を見つめる厳しい表情から察するに、あまり明るい話ではないのだろう。
「ごめんね、急に呼び出したりして。君も忙しいのに」
「いえっそんな!あれくらいオレの手にかかればすぐに片付きます!」
申し訳ないと眉を曇らす10代目に慌てて両手を振って否定する。
彼が気に病み頭を下げる必要はどこにもない。
それに、これは自惚れでもなんでもなく事実だ。
現に先日10代目がオレに与えて下さった仕事にはもう目星が付いている。恐らく明日中には片が付くだろう。
「ところで10代目。話というのは?」
「うん、それなんだけど……」
言い難そうに言い淀む。
暫し躊躇う素振りを見せるが、意を決したように真っ直ぐにオレを見つめ言った。
「君には暫くの間、少し遠方に出て貰いたいんだ」
「もちろん構いませんよ。……何か問題でも?」
煮え切らない表情の10代目に首を傾げる。
何か気になることでもあるのだろうか。
「……ちょっと向こうの現状が芳しくなくてね。かなりの危険を伴うことになる。実際に先に向かった部下の大半が……。だから気が進まなくて、ね」
「だったらなおさらオレが行くべきです。他の奴らには任せられません」
「はは、確かに。君の腕は誰もが一目置いているよ。もちろんオレもね。………でも、君だからこそ行かせたくないんだ」
「?何か仰いましたか?」
「ううん。なんでもないよ、気にしないで」
笑顔で首を振る。
最後の言葉がよく聞こえなかったが、10代目が気にするなと言うのならそれでいいのだろう。
しかし、それほどに緊迫しているのなら、流石のオレでも多少は手間取るかもしれない。
心優しい彼のことだから、たんに争いを拡大させたくないという思いが強いのかもしれない。
それにしてもいつもより乗り気ではないし、それなりに準備は整えておいた方がいい。
「申し訳ないんだけど、3日後には向かって欲しい。大丈夫かな?」
「3日……わかりました。問題ありません」
今受け持っている仕事を片付けるには十分過ぎる期間だ。何も問題はない。
「それではオレはこれで失礼させて頂きます」
「あっ、獄寺君ちょっと待って!」
引き返そうとしたオレを10代目が引き止める。
「実は君の他に、もう一人誰かに一緒に行って貰おうと思っているんだ」
「もう一人、ですか?」
「うん。今回は念の為」
10代目の心遣いが有り難い。
オレは彼のどんな人選にも従うつもりだ。
しかし、足を引っ張るだけの使えない奴は勘弁して欲しい。
……10代目の命令となれば喜んで従うが。もちろん。
「それで、一緒に行って貰いたいっていうのは…」
「ツナ!!獄寺暫く遠出だって!?」
この野球バカが……!!10代目のお言葉を遮るんじゃねぇっ!!
それにノックもなしで勝手に10代目のお部屋に入るなっ!!
「えっ、う、うん。というか山本、どこで聞いたのそれ。まだ誰にも言ってないんだけど」
本人にも今初めて伝えたのに、と驚きでぱちぱちと瞬く10代目。
10代目。こいつの行動に一々驚いていたら切りがないですよ。視界に入れないのが一番です。
「や、オレ獄寺のことならなんでもわかるんだわ。愛の力なのな」
………耳にも入れてはいけないようです、10代目。
「そ、そう。えーと……ああ、そうだ。一緒に行く人だったね。獄寺君、オレは…」
「タコヘッドが遠出をするというのは本当か沢田!?もちろんオレが同行だろうな!!」
てめーもか極限バカ……!!
しかもちゃっかり自分がついて行く気満々かよっ!!
「お、お兄さんまで!?本当にどこから仕入れて来たの!?」
全くです。
なんなんだこいつら。
「なんとなくそんな気がしたのだ。きっとこれが愛の力なのだな!!」
本当になんなんだよお前らっ!!
「あ、あははは……。えーっと………あれ?なんの話だっけ?」
「オレの次の仕事に同行する奴が誰かって話です」
「ああ、そうだった。ごめんね、うっかりしちゃった」
「いえ、10代目が気にすることじゃありません。するべきなのはあのバカ共ですから…」
バカ二人組が。
10代目の前で揃いも揃って間抜け面さらしやがって。
オレの言葉に10代目が微笑む。
「ありがとう。君と一緒に行く人はもう決まっていてね。彼となら獄寺君も安心して仕事に集中出来ると思うんだ」
「その一緒に行くのは当然オレなんだよなっツナ!?」
「オレに決まっているのだな沢田!?」
「いい加減にしろよてめーらっ!!」
「ご、獄寺君落ち着いて……!!」
10代目が止めて下さらなかったら、今頃こいつらの息の根を止めていたかもしれない。
危ない。一応こんな奴らでも10代目にとっては大切な存在だ。
オレなんかが彼を悲しませるわけにはいかない。
「……獄寺と一緒に行くのはオレっスよ?」
「何を言っているのだ。オレに決まっている」
「というかオレしかありえません」
「それこそオレしか考えられん」
だからこんな所で火花を散らすんじゃねえ……!!
安心して仕事に集中出来るっつーのに自分達が当て嵌まらないことに気が付け!!
「入るよ。……道理で騒がしいと思ったら……何やってるの君達。部屋の外にまで聞こえたよ」
「なっヒバリ!?」
「あ、来てくれたんだ」
オレが呼んだんだ、と言って10代目はヒバリを手招きする。
あの……それってひょっとして……
「獄寺君。今度の仕事はヒバリさんと行動して欲しいんだ」
「ヒバリと……ですか」
「何?僕とじゃ嫌?」
「……別に」
喜ぶほどでもないし、嫌がるほどでもない。
性格の相性はいまいちで、普段はあまり関わり合いたくはない。
しかし、認めたくはないがこいつは腕が立つ。
足を引っ張られるどころか、逆にこっちが妨げかねない。
断る理由がなかった。
「わかりました」
「よかった。それじゃあよろしくね二人共。でも無理はしないで」
「はい!」
「話は済んだね。僕は行くよ。……獄寺隼人、君も」
「あ、おう」
恐らく今回の仕事関連の話でもするのだろう。
今回は特に入念な下準備が必要だ。
「……ねえヒバリさん」
ドアノブに手をかけたヒバリを10代目が呼び止めた。
「……何?」
「あの時言ったことはちゃんと覚えているよね?」
「当然。君の目が届かないからって、勝手に手を出したりはしないよ」
「そう?それならいいんだ。安心して君に任せられるね」
なんの話をしているんだ?
深刻な雰囲気で、どちらも真剣な表情。
10代目はヒバリなんかに何を任せるというのだろう。
「骸も少し考えたんだけどね……彼はちょっと感情のままに行動を起こす節があるから」
「奴を候補に挙げることが既に過ちだよ。間違いなく彼が無事で済む筈がない」
彼……?
「やっぱりそう思う?かと言って、今回はランボには少し荷が重いし」
「彼、普段から殆ど役に立ってないじゃない」
「そんなにはっきり言わないでよ……」
話が全く見えない。
会話を遮るのは気が引けるが、これはもう聞いてみた方がいいのだろうか。
「すみません、じゅう…」
「というわけで、今回獄寺君はヒバリさんに任せるからね!」
オレのことなのかよ!?
「ああ。責任を持って預かるよ」
「ちょっ……勝手に何言って……!?」
「うん。オレの獄寺君をよろしく」
「じゅ……10代目!?」
今さりげなくとんでもないことを言いませんでしたか!?
そしてそんな眩しい笑顔をオレに向けないでください!!
「だから獄寺について行くのはオレなんですって!!」
「何度もオレだと言っているだろう!!」
………まだやってたのかよお前ら……
up 08.03.19