今日だけ特別

本日は晴天。適度な温度は外出するにはピッタリだ。
そんなわけで、今日は10代目はお母様と家族水入らずの……ではなく、何故かイーピンと姉貴も付いてのお出掛けに行った。
10代目いわく、もう家族みたいなものだから、だそうだ。なんて心の広いお方だ。
だが、あろうことかあのアホ牛は10代目の誘いを拒否した。そしてどういうことかお守役がオレに回ってきたのだ。
子供好きな山本がいると提案したが、山本は家の手伝いで手が離せないらしい。
何故かランボもオレがいいと言ったらしい。信じられなかったが、10代目がそう言っていたので自分を無理やり納得させた。



10代目の家なら菓子も遊び道具もある。オレの家には一切そういうものがない。だから自然とオレが10代目の家にお邪魔することになった。
部屋にはオレとランボだけ。この二人が揃っているというのに、部屋の中は静かなものだった。
ランボは少し離れたところでお絵描きに夢中になっている。
オレは何をするでもなく、ぼんやりと宙を見つめていた。ただ、ランボが何かバカをしでかさないように時々意識だけは向けて。


「できたっ」


不意にランボが声を上げた。その嬉しそうな響きに視線を向ける。
ランボは誇らしげに、今しがた完成した絵をオレに見せつけてきた。
白い画用紙に三つの顔。恐らく中央のが10代目。その両側にいるのはオレと山本だろう。しかしあまりにも似ていない。


「似てねえ」


弁護してやる必要もないので正直に感想を述べる。
似ているのは髪型と色くらいか。そのお蔭で誰だかかろうじてわかる。


「似てるもんねっ!」


即座の反論。
だが確実に10代目は似ていない。あんなものは10代目ではない。この絵からはあの気高いオーラが感じられない。
しかしあの黒髪はどうだ。そっくりではないか。アホ面とかその他もろもろを的確に捉えている。
見ると、ランボが描いたものはそれだけではなかったようで、背後に何枚もの画用紙が広がっていた。
そこに並ぶよく見なれた面々。どれも上手いとは言い難いが、これだけは言えた。どれもいい笑顔だ。


「獄寺のことブサイクに描いちゃうもんねー」


そう言ってランボはお絵描きを再開する。
オレはいちいち反応するのも面倒で、好きにさせることにした。
それに見てみたかった。あの絵が今以上に酷くなるのを。








ランボのお守は特に問題もなく続行中。
飴をせがむ以外は騒ぎもしなかった。もっと面倒なことになると覚悟していたのに拍子抜けだ。
いつもこうならオレもいちいち叫ばなくて済むのに。


「ん……?」


オレは顔を上げ窓外を見つめた。今何かが視界をチラついた。ああ、また。
一瞬、明るくなったのだ。もしや雷だろうか。だが今日は朝から晴れていた。
立ち上がってカーテンを開ける。見上げるとどんよりとした空。
いつ間にかガラス一枚の向こうには薄暗い空間が広がっていた。


「あんなに晴れてたのに……」


思わず呟く。やはり先程のは雷だったのだろう。だとしたら雨が降るのも時間の問題だ。
そう思った途端、空が大声を上げて泣き出した。
激しく地を打ち、視覚的にも聴覚的にも侵食していく。
10代目は無事だろうか。傘を持っていればいいのだが。だが、この雨では持っていても意味を成さないかもしれない。


「ピカピカゴロゴロだもんねー……」


随分近くで声が聞こえると思ったら、いつの間にかランボがオレの足元にいた。
そして一緒に窓外を覗き込む。
雨音だけでなく、雷鳴まで聞こえてきた。大きいが、そこまで距離が近いわけではないようだ。


「すっげー音だな……引っ切りなしじゃねーか」
「ザーザーもうっさいしぃー」
「やむのかよこれ」


そんな気配は微塵も感じられなかったが、ボヤいてしまう。
このままならオレも帰る時に濡れるのだろう。
オレはいいとして、10代目とお母様が帰宅する時くらいはやんでほしい。あとイーピン。姉貴は……まあ、どうでもいいか。


「本当は迎えに行きたいけど……って、何してんだアホ牛」
「くぴゃ?」


違和感を感じると思ったら、ランボがオレのズボンを掴んでいた。
ランボはオレを見上げてきょとんとしている。何のことかわかっていないらしい。
無意識だったのか。まあ、こいつはこんなこと意識してはしないだろう。相手はオレだし。


「なんで人の服引っ掴んでやがる」


そう言うと、やっと気付いて掴んでいた手を慌てて放す。
そしてキッと睨み上げてきた。だが震えているせいで迫力は半減。


「雷にビビったか?」
「ちっ違うもんね!こ、こわいんじゃないんだぞ!勘違いすんな!」
「嘘吐け。震えてるぞお前」
「違うもんねーー!!ランボさんはこれくらいのカミナリなんて…」


その時、ランボの言葉を遮るようにして再び空が光った。しかし今度は大きな雷鳴のおまけ付きだ。


「ぐぴゃっ!!」
「お。これまたでっけーのが落ちたな」


しかも結構近い。いよいよ本格的に降ってきたようだ。
ところでランボはどうしたのだろう。先程の音でも震えていたのだ。今のはそれらよりもだいぶ大きかったが大丈夫か?


「が、が・ま・ん……」
「……おめー本当に雷の守護者かよ」


大丈夫ではなかったらしい。
身体は小刻みに震え、目許には涙が溜まっている。やはりこの泣き虫には耐えられなかったか。
あのリング争奪戦以来、雷が苦手になったのかもしれない。


「ラ…ランボさんは強い子……」


溜息を吐き額に手を添える。
本当にこのガキは世話が焼ける。


「あーもー仕方ねえな。ほらこっちに…」
「とぅっ!」
「来い……ってまだ言ってねぇだろうが!!腹に抱き付くな!!」


屈み込んでやると、言い終わるより先にランボがオレの腹に飛び付いた。
あまりの勢いのよさに尻もちをつく。元気で大変結構。一発殴らせろ。
剥がそうとするも、ガッチリと掴まれてそれも出来なかった。いざという時の子供の力は侮れない。


「獄寺のケチンボー!!」


そう言ってしがみつく子供の顔からは、さっきまでの虚勢は見つけられない。


「……もう好きにしろよ」


無理やり引き剥がしてわざわざ泣かすこともない。どうせこれも今日だけなのだ。
一日いい子にしていたご褒美だ。10代目達が帰ってくるまでならこのままでいてやるとしよう。


up 09.03.05