いっつもハルにはうるさいくらいに、
「簡単に隙を見せてんじゃねえ」
とか、
「少しは自覚しろアホ女」
とか。
隙ってなんですか。
自覚って何を。
あまりアホアホ言わないで下さい。
いつもいつも理不尽なこと言ってくるくせに。
自分はいいんですか。それってなんだか納得出来ません。
電車と同じリズムで揺れる銀髪。
肩にのるあたたかい重み。
彼、獄寺隼人は就寝中。ハルにもたれかかって夢の中。
軟らかな細髪が首筋をくすぐってこそばゆい。
ハルは小さな溜息を一つ。
重いな、とかそういうのじゃないんです。
人気が少ないとはいえ、彼がこんな公共の場で気を許すのは珍しいことですし。
最近忙しかったようなので、疲れが溜まってたんだなぁと思うことで手を打ちます。
原因はアレです。
斜め向かいの席に座っている女の子達が、先程から頬を赤らめて何やら囁き合いながらチラチラとこちらに視線を向けて来ているんです。正確にはハルの隣で眠る人物に。
なんでしょう。これは見物料を取るべきなんでしょうか。
正直言って、ハルは彼女達が羨ましいです。
だって、あの子達からは獄寺さんの寝顔がばっちり拝めるんですから。
対するハルからは、バックの窓から射し込んだ陽に煌めく髪しか見えません。
彼と付き合っているからと言って、その表情はハルだってそうそう見られるものじゃあないんですよ。
レアなんです、レア。それもかなりの。
もたれかかられるのが彼女の特権なら、寝顔もハルだけのものでもいいですよね?
む……なんだか腹が立ってきました。
誰でしたっけ。隙を見せるなだの自覚しろだの口喧しくお説教してきたのは。
あなたでしたよね?獄寺さん。
ハルにだってそれを言う権利はある筈です。
いいえあります。ないとあなたが主張するのであれば、そのあなたからぶんどって見せます。
いっそのこと二人の権利をトレードしましょうか。もう何も言わせませんから。ハルを舐めないで下さい。
無駄に整った容姿をしているんですから、あなたには一つひとつの行動を謹んで貰いましょう。
あぁ、一体いつ目を覚ますんですか。
起きて欲しい。起こしたい。
思い切り揺さぶって起こしましょうか。それともその美しい銀髪を引っ掴んでやりましょうか。
どちらを選択しても、不機嫌に怒鳴り散らす様子が目に浮かびます。即却下。
周りに迷惑をかけてはいけません。車内でのマナーは守りましょう。
それにこんなに気持ちよさそうに寝ているのに起こすなんて……
非常に悔しいですが、ハルには出来そうにありません。彼が自然に目を覚ますのを待ちましょう。
隣の彼が小さく身じろぐ。伝わってくる振動。
目的地への到着を告げるアナウンスはまだまだ先。
彼への視線が逸らされるのもきっとまだまだ先。
ああもうっ。やっぱり早く起きて下さい!
「おい起きろハル」
「ふぇ…?あれ、獄寺さん起きちゃったんですか?」
「なんでお前寝てんだよ」
「ん…、なんだか心地好くなってきちゃって……陽が暖かいからでしょうか」
「アホ。気ぃ抜き過ぎなんだよてめーは。どこでもアホ面さらすなつってんだろ。無防備に寝息なんざ立てやがって」
「アホアホ言わないで下さい!獄寺さんだって視線を集めまくってるじゃないですか。何か特殊な電波でも発信してるんじゃないですか?」
「視線?そりゃお前だろ。四六時中電波垂れ流して」
「それも獄寺さんですー!ハルには文句ばーっかり言って!今度こそハルの言い分を聞いて貰いますからね!?」
「あ…、ちょっ、待てハルッ」
「なんですか?はぐらかそうったってそうは…」
「……今の……降りる駅だった」
「はひっ!?え、ウソ……わ、わ、獄寺さんのバカッ!!」
「ってぇ!!殴んなアホ女ッ!!」
up 08.10.12