accogliente pioggia

今日は生憎の雨。
雨は嫌いじゃない。けど、部活が出来なくなるって点ではあまり歓迎したくない。
どうやらオレから野球を切り離すのは無理なことらしい。やっぱりこんな天気でも野球がしたい。
朝から降っていた雨は、昼を過ぎた辺りから次第に激しさを増して。
グラウンドが雨で沈んで使えないってんで、今日の部活は室内でのトレーニングになった。
そんなに長くやるわけじゃない。だからツナ達が待ってるって言ってくれたけど、長引く可能性もあるし、悪いから先に帰って貰うことにした。
小さく溜息を吐く。
今更ながらちょっと失敗したかなと思う。やっぱり待って貰えばよかった。
野球は出来なくても、せめてあいつの顔がもう少し見たかったな。
一歩一歩と前へ踏み出すたびに、足元に雨が纏わりつく。
既にズボンの裾は水分を含み色濃くなっていた。


「お?」


普段から見慣れた通学路。
しかし、今朝までとは違うところが一カ所。なかったものが存在していた。


「ダンボール、と傘?……お、仔犬じゃん」


道端に置かれた小さめのダンボール。それを覗き込んでみると、中にはタオルを被せられた仔犬がいた。
この仔犬を置いて行った人物、それか見つけた誰かが雨をしのぐ為に置いたのだろう。紺色の傘が屋根代わりになっていた。
後者なのだとしたら、優しい奴もいるもんだな。
それによって自分は雨に打たれながら家路に着かなくてはならなくなるというのに。


「ん?」


不意に背後で砂利を踏む音が聞こえた。
誰かが通りかかったのかと思い、何気なく振り返ってみると。


「げっ」


銀髪から雨滴を滴らせた男が、コンビニの袋を片手に苦い顔をして立っていた。










ずぶ濡れだった獄寺を連れて帰ったオレは、とりあえず獄寺をシャワーに向かわせた。
その間にオレは替えの服と温かい飲み物の用意をする。飲み物はなみなみと注がれたホットミルク。


「はい、獄寺の分」
「ん」


コトリと音を立ててテーブルにマグカップを置く。
獄寺はというと、オレのベッドに腰掛けて、大きめのタオルで髪をガシガシと拭いている。
髪を乾かす手を一旦止めると、獄寺は両手でマグカップを包み込む。
ふぅふぅと入念に冷ましてからそれを口にした。
前に猫舌だってのは聞いていたから気を付けたんだけど、まだ熱かったのかな。
目の前のミルクに夢中になってしまった獄寺は、髪を乾かす手が疎かになっていた。
時折滴が落ちて肩を濡らす。


「獄寺ぁー、早く乾かさないとハゲになるぞー?」
「てめーとは違う」


なんだよそりゃ。
オレは駄目だけどお前は大丈夫だってか?
確かに獄寺の髪が薄くなってるのなんて想像出来ないけど。
……つーか、想像したくない。


「わっ!?」
「ほら風邪引くって」


そうでなくてもさっきまで雨ん中にいたんだから。
オレもベッドに腰を下ろし、頭にのせたままになっていたタオルを拝借。
隣からじゃしずらかったから、背後に回る。そして髪を拭き始めた。
最中、止めろだのうぜぇだの言われたけど、それ以外は獄寺は終始オレのされるがままだった。


「はい、完了!」
「……サンキュ」


釈然としない表情を浮かべながらも、ぼそりと礼を言う。
そんな獄寺にニッと笑いかけると、オレも自分のマグカップに手を伸ばす。
ちょっと温くなっちまったな。でもこのくらいが獄寺にはちょうどいいのかも。
チラリと隣を見てみると、ちょうど獄寺も自分のマグカップを掴んでいた。
ああ、やっぱり。
少し窺うようにしていたのは一口目だけで、二口目からは躊躇うことなく口にしていた。
どうやら自分好みの温度だったらしい。満足そうな笑みを浮かべてご機嫌だ。
あーあー、可愛い笑顔しちゃって。


「なあ獄寺」
「……あぁ?んだよ」


なのに可愛くない返事が返ってきた。
まるで至福の時をオレが邪魔したみたいじゃねぇか。
……そうなのか?今のってオレがいけなかったのか?


「……今日はツナと帰ったんじゃなかったっけ?一緒にいなかったよな」
「10代目?」


ツナの名前を聞いた途端、獄寺の纏う空気が変わる。
一体さっきまでの不機嫌さはどこへ行ったのか。
こいつのツナに対しての感情については理解している。けれど、ここまであからさまにされるのもなんだか面白くない。
ちょっとだけ意地悪しようか。


「振られちゃった?」
「は!?ちげーよっ!!10代目は……その…、笹川と……」


ああ、そうか。
誰よりもツナを優先するこいつだから、途中で鉢合わせたツナと笹川が一緒に帰るように気を使った。
結果獄寺は一人で帰ることになった。その帰り道で捨て犬を見つけた。
マンション住みだから、自分は飼うことが出来ない。
せめてと思い、凍える仔犬の為に暖かいタオルをやりパンなどを買ってやった。


「…………犬にのりかえ」
「なぁ!?バッ、んなわけあるかっ!!!」


冗談だとわかっているのかいないのか。
獄寺は顔を真っ赤にして怒鳴った。


「第一、オレにはてめーがいんだ!んなことすっかよ!!」
「…………え……?」
「あ……?…………あ…、あ〜〜〜っ!!!!」


自分が発した言葉の意味に気付き、叫びながら頭を抱え蹲る獄寺。
オレも全く予想していない答えが返ってきたから聞き返してしまった。滅多に聞けない言葉だ。


「獄寺もう一回!」
「………ざけんな、調子乗んな、果てろ」


それはもう聞き慣れてる。
獄寺はまだ項垂れて何やら呻いていた。余程さっきのが堪えきれないらしい。こっちとしては嬉しいのに。
腕を回して身体を引き寄せようとしたら、するりと逃げられてしまった。おしい。


「っ……、お代わり入れて来るっ」


そう言って獄寺はバタバタと部屋を出て行ってしまった。
嵐が去ったように静まる部屋。
それによって、先程までは忘れていた窓外の雨の音が耳に入ってきた。
マグカップからもう一口飲む。中身はすっかり冷めてしまっていた。
それにも関わらず、空いた隣のベッドと雨音はとても温かかった。


up 08.06.01