宍岳/山獄/久保時
「……だるい」
「そりゃ熱あるしな」
「……頭痛い」
「熱あるし」
「……喉渇いた」
「さっき枕元にスポーツドリンク置いただろ」
「……宍戸」
「なんだ?」
向けられた顔は不機嫌そうに眉間に皺が寄っている。
しつこすぎた?
病人はもっと大人しくしてろって?
病人なんだから少しくらい我が儘言ってもいいよな。
ああ、でもいつも言ってる気がする。
まあいいよな。今更だ。
「キスして」
「……なんで?」
「辛いんだもん」
「あのなぁ……」
「人に移せば回復するんだぜ?愛しい恋人を助けると思って…」
「岳人」
何?
そう尋ねる前に口を塞がれた。
さっき俺の言った方法で。
まさか、こいつが、本当にしてくるとは思わなかった。
「っ、はぁ……ししど……」
「あんま煽ること言うなよ」
「は……?」
「いつまで保つか自信ねぇから」
そう言った顔は、夜にしか見せないそれで。
滅多に見れない。つまり免疫もろくにできていないわけで。
いつもと様子の違う俺だから?だからそんな表情すんの?
意識せずとも顔に熱が集まるのがわかった。
「今って真っ昼間なんだけど」
「知ってる」
気まずそうに逸らす視線は、数少ないお前から仕掛けてきた時のみに見せるそれ。
「……やべ……熱上がってきた……」
「……ふざけたこと言ってっからだ」
病人相手に何考えてやがる。って、俺も人のこと言えねえ。
しばらくは、このいつ冷めるかもわからない熱に悩まされそうだ。
「やっぱ頭いいからなのかな」
「ぁ……?何が」
「獄寺頭いいじゃん。よく言うだろ?バカは風邪引かない」
「……気づかないの間違いなんじゃねーの?」
「ははっそうかもな」
脳天気に笑ってやがる。
わかってんのか。てめーのことだぞそれ。
あーくっそ、喉いてえ。
明日声出るのかよこれ。すでに掠れてきてんじゃねーか。
「……なぁ」
「あんだよ……あんま話しかけんな、喉いてーんだから」
「キスしていい?」
「………………バカか?」
「駄目?人に移すと治りが早いらしいぜ」
それ迷信だっての。信じてんのかよガキじゃあるまいし。
一歩譲って、それが本当だとする。
そしたら次に辛い思いをするのはお前か。
いいなそれ。バカながら名案だ。
てめーもオレと同じ苦しみを味わいやがれ。
でも駄目だな。
こいつバカだから風邪を引いても気づかねえ。意味ねーよ。
熱は駄目でも喉の痛みだったら気づくか?いや、それすらも気づかないかもしれない。
「ごくでらー」
「あー……?」
「ほら」
「ほら、じゃねーよ。するなんざ一言も言ってねえ」
「でもしないとオレもう死にそうで」
「おめーがかよ」
お前の都合なんか知るか。
オレは、熱と喉の痛みで死にそう。
お前は、飢えだかなんだかで死にそう。
死にそうな者同士、しばらくこのままでいいじゃねーか。
「う゛ー……」
「どーしたの、さっきから唸って」
「ヒマ……」
「熱あるんだから寝てなきゃ」
「じっとしてんのは性に合わねえ……」
「そういう問題じゃあないっしょ」
ゴロリと寝返りを打つ。
ゲームやりてぇ。ちょうど今ボス戦の前まできてんだよ。
漫画読みてぇ。全部読んじまったけど寝てんのヤダ。
アイスでもいいや。シャリシャリの冷たいヤツで我慢してやる。
とにかく、何かない?
「そんなに暇ならさ」
「ん?」
って、いつの間に被さってんだお前。
そしてその笑み。
何考えてやがる。なんとなくわかっけど。
つーか、煙草危ない……今日は吸ってないんだっけ。流石に風邪の時は気を使うのか。
……もしかしてそれで禁断症状?
「運動しよっか」
「えぇー……」
「汗かいた方が早く治って遊び放題よ?」
「や、運動はしたくないかな」
「あら残念」
全然残念って顔じゃねーじゃん。
あーでも確かに早く治したいよなぁ。
「久保ちゃーん」
「うん?」
「アレして」
「ドレ?」
「……言わせんな」
「はいはい」
ゆっくり近づいて、ゆっくり離れていく。
うわ……唇すげえ熱い。
「んじゃ俺寝るわ」
「結局寝るのね」
明日になれば、熱も引いて、もうベッドなんかに住む必要もなくなってんだろ。
代わりに久保ちゃんがベッドの住人になってるかもだけど。
でも俺は退屈なんてしなくてすむんだ。
だったら、そのためにも今日は大人しく寝といてやるよ。
使用 08.08.29 - 10.3.12
up 10.05.26