ピシャリ
ピシャリ
どこかから雨でも漏れているのだろうか。
絶えず聞こえてくるその音に鳳は眉を顰めた。
どのくらいこうしているのだろう。2時間は経っただろうか。彼はこの場に辿り着く前に時計を壊してしまい、時間を知る術を持ち合わせていなかった。
彼らなら知っているのだろうが。
鳳は左右に視線を巡らせた。
左から、青春学園の不二周助、聖ルドルフの観月はじめ、立海大附属のジャッカル桑原。そして、氷帝学園の鳳長太郎。
丁度4人、輪になるようにして座っていた。その中央には焚火が赤々と燃え上がり、太めの枝がパチパチと音を上げながら爆ぜている。
既に日が暮れていて空は暗い。焚火の明りが漏れ、外からは自分達がいるのが見えてしまう。殺してくれと言っているようなものだ。しかし、この洞窟は冷える。最初は全員我慢していたものの、雨が降っている為中の気温が下がる。仕方なく燃やすことにしたのだ。
「……観月、今の時間わかるかい?」
静かに口を開いたのは不二だ。観月は自分の手首に視線をやった。
「……20時26分です」
そっか、と呟くと、不二は大きく伸びをした。
「僕らがここに集まってから、2時間くらい経ったのかな?」
「ええ。正確には…」
「2時間17分だな」
突然割って入った声に、観月が不機嫌そうな顔をした。
よほど言葉を挟まれたのが癪に障ったのだろう。声の主、ジャッカルは慌てて弁解をする。
「そんなに睨むなって!いつまでも黙ってると気が滅入るだろ!?」
「そうだね。少しお喋りしてもいいんじゃない?ね、鳳君」
「……えっ!?は、はいっ!」
そこで自分に話が振られるとは思っていなかった鳳は声が裏返ってしまった。
それを見て不二がクスクスと笑う。
「ふふ、そんなに緊張しなくていいって」
「……誰だって固くなります。こんな状況なんですから」
観月はふぅ、と息を吐くと、眼前で不規則に踊る炎を見つめた。
「……本当に馬鹿げている」
こんなくだらないゲームなんて。
これが法律だなんて、大人達は一体何を考えているのだろうか。こんなことをして何になる。
生き残れるのはたった一人。優勝者は、このゲームに関することは一切他言無用。
続けていけば子供は次々と減っていく。少子化が問題だとか、この間ニュースで取り上げていなかったか?
まさかゲームに参加した子供だけで社会を造るつもりか?
「馬鹿だ……」
考えに着いて行けない。
「観月……」
気遣う声色に視線を向ける。不二が不安げに表情を窺っていた。
「あまり考え過ぎない方が……」
「……わかっています」
わかってはいる。
考えていても、自分達はこのふざけたゲームの ”参加者” だ。どうしようもない。
「……みんな無事だといいんだけど」
鳳がポツリと呟いた。膝を抱え、大きな身体を縮こませている。
「……アイツらなら大丈夫だろ」
不思議そうに顔を上げる。ジャッカルは鳳には視線をくれず、膝に頬杖を突き、炎をジッと見つめたまま言った。
「変に先走る奴もいないだろ?簡単にやられるようなのもいない」
「うん。みんな意志が強いからね」
不二の相槌に、ほんの少しだけ気持ちが軽くなる。
「でも……中には乗っている人もいます」
苦しげに顔を歪める。観月は唇を噛み締めた。
「彼は……彼は……っ」
「観月落ち着いて……」
取り乱す観月を宥める不二。
観月はここに来る以前、冷たくなった自分の部の仲間を見ているのだ。
それは明らかに人為的なもので。自らゲームに参加している者がいるということを示していた。
「彼は、もういません。……裕太君だって、無事かどうかわからないんですよ!?」
「っ……!!」
不二が息を飲む。
考えていないわけではなかった。ただ、考えたくはなかったのだ。
彼が死んでいるかもしれない。
喧嘩をすることもしょっちゅうで。それでも、唯一無二の兄弟。心配でない筈がない。
「僕は……誰を信じていいのかわかりません。今だって、あなた達のことを信用しているわけじゃない」
こうして輪になり、共に夜が明けるのを待っているが、疑っている。この中に仲間殺しがいるかもしれない。
「俺は……殺しなんてしない」
真っ直ぐとした眼差しでジャッカルは観月を見ていた。
「……かもしれませんね。でも、人間はいつ血迷うかわかりません」
哀しそうに瞳を伏せる。
「……君のところの切原君、大丈夫なんですか?」
「……どういう意味だ」
ジャッカルのいくぶん低くなった声色に怯むことなく、観月は淡々と言葉を繋ぐ。
「彼、真っ先に暴走しそうじゃないですか。あなただって本当に…」
「うるせぇよ!!赤也がんなことするかっ!!」
ガッ、と観月の胸倉を掴み憤る。不二が慌てて二人の間に割って入った。
「ちょっと二人共……っ!」
「赤也達だって苦しんでんだ!お前だけじゃないんだよ!!」
「ジャッカル……!!」
溢れた感情は一度出すともう止められない。
苦しい。
それは全員同じだ。ここにいる自分以外の3人だって変わらない。観月にもそれはわかっていた。
「俺達はなあっ!!」
「しっ」
短い静かな制止に、全員の動きが止まる。
「鳳君……?」
集まる視線を気にせず、瞳を閉じて耳を澄ますことだけに神経を集中させる。
「……足音が聞こえます」
そしてゆっくりと瞳を開き、はっきりと言った。
「誰か来る」
全員が息を殺して入口に視線を向ける。
地を打つ雨音と一緒に、水を蹴る音が混じる。
ピシャリ
ピシャリ
パシャッ
姿を見せるのは敵か、それとも味方か。
up 08.01.31